2016年10月28日金曜日

電気を抜かれたピカチュウ

筆者のスマホは言わずと知れたiPhoneなんである。とはいえかなり古いiPhone5だ。3、4年前にガラケーから乗り換えたわけで。以来スマホを片時も離せない人ほど執着はしていないものの、やはり生活のツールとしては欠かせないデジタル機器のひとつにはなった。ことに仕事においても最近はクライアントともLINEで連絡したりもする。LINEをするようになってメールの頻度は激減。ネットはもっぱらiMacなのでさほどiPhoneには依存しない。ゲームは最近のポケモンGOくらいでほとんどやらない。昔「漢字検定ゲーム」に夢中になったこともあったが、文字が小さくて目が疲れて飽きちゃった。

このところ電池の減りがもの凄いんである。%表示が腹と背中に米俵をくくりつけてスカイダイビングするように一気に下降するのだった。100%充電してもあっという間に減って行く。外回りの営業マンなら致命傷だろうけど、筆者は屋内での職業なのでまだ我慢が出来た。が、しかし。今度はとうとう電源ケーブルを差しても充電出来なくなっちゃった。これは由々しき事態である。ピカチュウから電気を抜き取ったようなものだ。或いは羽をもがれた鳥に等しい。

一昨年あたりからiPhoneの新バージョンが発表されるたびに、機種変更しようか逡巡したのだけれど、食指が伸びなかったというより、まだ十分使えるのに破棄するのは...そうIOCバッハ会長も言ったように「モッタイナイ」的な日本人的感覚から買い替えなかったのだった。しかし今年こそは意を決して秋に替えようと決心していたところに、この電源入らない現象がその背中をぐいと押してくれたわけで。

今日ショップでiPhone7に替えた。
前回ガラケーからiPhoneに替えた時と同じショップで。担当者も当時と同じ可愛い女の子だった。それを伝えると彼女もまた「ええ、あの時のお客さんですよね、憶えてます」と。なんと嬉しいではないか。しかも偶然彼女も今回iPhone7に替えたばかりとのこと。もっともデカいほうの「iPhone7PLUS」だったけれど。

古い5のデータをiTunesを使ってMacにバックアップし、更に7に復元完了。
写真がめっちゃきれいに撮れるわあ。
ネットやポケモンGOもサックサク、まるで日曜朝遅めのブランチに食べる、焼きたてのクロワッサンの歯ごたえみたいに。
新しいモノは実に気分が良いものである。
畳と女房とスマホは新しいほうが良いのだ(おっとギャラクシーノートは例外だぜ)

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小説「月に雨降る」29

龍一は珍しくわずか1時間ほどの残業で恵比寿三丁目にある会社を出た。この業界1時間の残業は残業のうちに入らない。このところ全社的に少し仕事が緩くなってきて社員たちは概(おおむ)ね歓迎だったが、役員たちは眉間にシワを寄せることが多くなって来た。もともとT&Dは業界でも堅実経営の会社で有名で、年間を通じて多少の波はあっても大きく業績が落ち込むことは少なかった。しかし近年のリーマンショックの時は業界全体にわたり、春が終わりかけた頃に夏と秋を飛び越えていきなり冬がやって来たような冷え込みようで、その時ばかりは決まった案件が軒並みペンディングになり、現場も計画も凍結されて一時期売り上げが相当落ち込み、T&Dもその例外ではなかった。
サッポロビール工場跡地に建ったガーデンプレイスの高層ビルを左手に仰ぎ見つつ、山手線を睥睨(へいげい)しながらアメリカ橋を渡り、右へ折れる坂道をゆっくりと下っていった。ジャケットの内ポケットからiPhoneを抜いて恭子にLINEを送った。
『もうじき着くから』
すぐに返信が来た
『もう、一杯目のビール飲んじゃったよ』
『じゃあ、俺の分もいれてビールふたつ頼んでおいてくれたまえ、鈴木くん』
『了解しました、神島課長殿』
恭子と待ち合わせたのは恵比寿駅から歩いて5分ほどのデザイン学校の裏に出来たオープンテラスのある、日本そば屋の主人が出した創作和食の店だった。ほとんど人通りのない暗い路地に店名の入った控えめな行灯が置いてあり、垣根越しにテラス席の客の会話が漏れ聞こえるようなひっそりとした佇まいだ。龍一の取引先の尊敬する先輩に連れられて以来、恭子と何度か来ている店だった。最近の設計案件の話や会社での出来事、社内で誰と誰がつき合ってるらしいとか、朝礼の時に社長の頭が随分薄くなってきたことを発見したとか、とりとめもない話に興じた。腕時計を見て龍一が言う。
「そろそろ真壁が店を開けてる頃だな。Makiにいこっか」
「うん。いつものコースね。ラジャー」
「何、ブラジャーがどうしたって?」
「おお、そう来たか。リュウさんのエッチ」
「今頃気づいたの」
「キリストが生まれる前から気づいてたわよ」
「バレたか」
龍一は一瞬、昔こんな会話を希伊ともしたことがあったなと想い出して、恭子を前になんだか鉛を舐めたような気分になった。
大学時代の友人の真壁がやっているバー「Maki」は、恵比寿神社のすぐ横にある恵比寿西一丁目の小さな店だ。龍一が会社に内緒でバイトで設計した。以来ここも何度か通った。重厚な黒いドアを開けるとまだ準備中だったのか、いつものビートルズのBGMが流れていなく、しんとした空気の中で真壁が生真面目にカウンターを拭いているところだった。まるでギネスのボトルに発泡酒を入れてそうと知らずに飲まされたような気分だった。
「おう」
と龍一が言うと相変わらず真壁の返事は、二人の客の顔も見ずに、
「ん」
だった。他の客には『いらっしゃいませ』と経営者としての或いはマスターとしての最低限の言葉を発するのだが、龍一にはたいてい『ん』だった。たまに間違って龍一に『いらっしゃいませ』と言ってしまった時には、打者にフォアボールを与えてしまった投手のように軽く舌打ちしたりする。日本語の中でおそらく最も短い、彼なりの親愛の情を込めた単語なのだ。
「最近どうよ店の調子は、真壁」
「ん。まあまあだな」
真壁がまあまあと言うのはそれなりに商売になっている証拠なのだろう。龍一たちはいつも2、3杯飲んで帰るのだが、ここの店は夜半過ぎから六本木や中目黒から流れて来た常連客で朝まで賑わうのだった。恐ろしいほど無口で無愛想なマスターが、逆にその、人に媚びない人柄が人気の秘密らしい。かと思えば妙齢の女性の一人客などには親密に話し相手になったりもする。いつだったか店を閉める時に、泥酔した女性客をタクシーで自宅まで送ってやったことがあったそうだが、その話を聞いた龍一が、
「あらら、そのあとどうしたのよ」
という問いに彼は、
「ん、そのあとどうもしないよ」

と答えていたが、真壁の眉が微妙につり上がっていたのを見逃さなかった。思わずニヤリとした。真壁は嘘をつく時は必ず眉を吊り上げる癖があることを龍一は知っていた。
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2016年10月24日月曜日

リプレー検証について

日本シリーズは広島東洋カープが本拠地マツダスタジアムで2連勝を飾り、あさってから札幌で今季限りの引退を表明した黒田の先発で第三戦を迎える。日ハムファン、カープファン、及び純粋なプロ野球ファンにはたまらないのであるが、それ以外のチームのファンにはつまらない時季なんだろうな。実際もしカープが日本シリーズに出ていなかったなら、筆者は全く食指が動かずチャンネルをひねることもなく、新聞のラテ欄すら目を通すこともないだろう。おそらく小説の続きを書いているか、TVなら「ダッシュ村」からの「イッテQ」あたりを観て、腹を抱えて笑っているに違いない。

今日の第二戦はもちろん観た。
1:1同点の6回無死二塁カープの攻撃、菊池のバスターは左前安打、走者田中は三塁を蹴って果敢に本塁へ突進。左翼西川のバックホームはダイレクト返球。捕手大野は追いタッチぎみだったが、間一髪でアウトのコール。TV画面で観ていた筆者はあんな短い安打で本塁まで突くのは無理だと思った。自分もライブの画面ではアウトに見えた。でも緒方監督がシリーズ前に選手に言っていたのは「結果ダメだったとしてもチャンスがあれば果敢に攻めろ」だった。なのでこれはこれで良いではないかと思ったのだった。

ところがすぐに緒方監督が審判に歩み寄りビデオによる「リプレー検証」を要求。
これは結果的に監督自身が言っていた「結果ダメだったとしてもチャンスがあれば果敢に攻めろ」が実ることになる。筆者はビデオで観ても結果は同じアウトだろうと思った。ところがいくつかのカメラアングルでリプレーを観ると決定的な再生動画アングルがあった。田中のベースタッチが「早かった」という大方の報道は間違っている。捕手の追いタッチはミットと走者との間に僅か数センチの空隙があった。つまりタッチすらしていないんであった。
完全にセーフだった。田中くん、ゴメンナサイ。私が悪かった。

あの角度で見ていた審判は責められないと思った。位置取りもセオリー通りだろうし。自分もアウトだと思ったし。あの角度ではアウトに見えたのも頷ける。人間だもの。こんなふうにビデオ判定が導入されると賛否両論あると思うけれど、時代の趨勢というもので、判定や作戦などにデジタルな機械のチカラを借りることは仕方ないことなのだろう。テニスやバレーボールでラインを割ったかどうかを瞬時にデジタル判定しているのは周知のとおり。サッカー界でもボールにICチップを埋め込み、ゴールラインを割ったかどうかを機械判定するという動きがあると聞く。

それにしてもあの主審、ストライクのコールの際に二本指を突き出して甲高い声で何か叫ぶのだが、なんて叫んでいるのか是非ビデオ音声判定してもらいたい。筆者には「ぎゃー!」としか聞こえないのだった。

さてそんなわけでカープ2連勝に浮き足立つ筆者なんであった。しかし大昔カープは3連勝のあと4連敗という悪夢を経験している。それが日本シリーズ。

それで何か画像をアップしてブログの筆を置こうと思うのだった。
ほれ、これ。

あら、違った。ならばこれか。

あれれ、もっと違ったか。んじゃこいつかな。

おいおい、なんかおかしいぞ。こいつはどーよ。

日本シリーズ、広島カープと全然違うじゃん。ほんじゃこれか。

もっと違った。これはフレンズLINEのアイコンだ。今日のフレンズLINEにはOBのHajimeが作ったという岩海苔?海苔の佃煮?うどんを食う(飲み込む)フレンズの誇るスーパー三年生のAkiの動画がアップされて大いに盛り上がった。因にうどんドンブリ9杯食らってから瞬時に死んだように寝たみたいだ。寝る子は育つ。食う子はもっと育つ。

おっと、いけねえ、本当にアップしたかったのはこれ。
黒田の大きな背中が見られるのもあと少しだ。

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2016年10月22日土曜日

やっちゃえオッサン

少年野球BLOG本文へ入る前に、なにくれと言い訳がましく悪く言えば駄文、良く言えば序文を書いてしまうのは、あたかも高見盛が顔をパンパンやってから本番取り組みに入るように、いわばルーティンワークとなった感のある少年野球「晴耕雨読」BLOGなんである。
昨日土曜に蒲田で現場打合があり、その流れで大田区の小料理屋で友人と呑み会になった。
急ぎの仕事であった。
更に呑んでる途中別のクライアントから電話があって、南青山のスポーツジムの案件が舞い込む。
こりゃまた急ぎの仕事であった。
週明けの月曜には茅ヶ崎の新築ビルの案件の打合で、18:00から目黒区へ行かなきゃなんであった。
これは長丁場の仕事であった。
その間これからQueensの仕事がふたつあり、フレンズに至ってはいよいよ成績表冊子制作と写真収集まとめの作業の季節到来なんである。

これだけ言い訳をするとなぜだかココロの底がほっくり安心するのはどうしてだろう。
と同時にこれだけ言い訳をするとなぜだか自分が狭量な男に思えてくるのはどうしたものだろう。

てなわけで、今日土曜日は多摩川瀬田ドームで行われる川少連秋季大会ジュニアの部の決勝戦取材に行くつもりであったが仕事となって叶わず。高津区VS宮前区クラブJr。しかしフレンズから頼もしい特派員記者が観戦に行ったのであった。スコアラー部長Ohmoriオヤジであった。

彼からまずはLINEにて第一報が入る。
「2裏Soraの弟Ryuの右中間を破るタイムリーでクラブJr1点先制!」
第二の報告。
「3表高津に一点返され同点」
しかしなんである。そのあと、
「その裏クラブJrが3点加点し4:1」
おお、さすがは宮前、このまま「やっちゃえニッサン」じゃない「やっちゃえオッサン」じゃない「やっちゃえミヤマエ」なのだった。
......しばらくLINEが鳴りをひそめたと思ったら、最後にOhmoriオヤジから来た。
「宮前クラブJr優勝!!!!!」
送られてきた画像を見て驚いた。
なんと最終5回表に高津区が追いついて5:5から、その裏クラブJrが劇的サヨナラゲームとしたのであった。高津区もアッパレ、更に宮前もアッパレな激戦の試合だったようだ。

これを筆者がフレンズLINEにアップすると、矢継ぎ早に「おめでとう」の祝福の言葉やスタンプの嵐がぐわんぐわん吹き荒れる。ほどなくして連盟連絡網にも事務局Satohさんからメールが来た。遠方よりNishimura事務局からも祝福のリプライ。
Shohma母Tomoちゃんから写真がアップされた。フレンズ監督、連合クラブJrの29番コーチの重責を果たしたItoh、そしてShohma、Kunji、Takashiお疲れさん、おめでとうなんである。

連合監督のHirataさんが一番ほっとしたに違いない。なぜなら、彼は.....
「もし優勝出来なかったら頭を丸めるとまで言い切ったんである。
....更にもし出来なかったら渋谷のスクランブルを逆立ちして渡り、全裸で国会議事堂の周りを一周し、そのまま東京スカイツリーからパラシュート無しで飛び降りて、最後に豊洲市場の地下空洞の水を一人でかき出してみせるとまで宣言しちゃったんである」
これに加えて今思い出した。
「ついでに2020年東京オリパラ海の森ボート会場を自腹で改築工事をし、更に自分の給料を半減しちゃう」と言った公約を実行せずに済んだからである。

改めて優勝おめでとうなんであった。他の連合、単独が消えてしまった今、宮前の面目躍如である。
更にこれから宮前軍団には「川崎市長杯」が待っている。
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2016年10月20日木曜日

小説「月に雨降る」28

右手の中の紙切れを握りしめながら、自由が丘駅へ向かう龍一の足取りは重かった。この二週間なにも手をこまねいて漫然と過ごしていたわけではない。消息を断ってから真っ先に希伊の友人数人に連絡を取ってみた。龍一が電話番号まで知っている者は少なかった。希伊がいなくなった理由を話すには、徒歩でサハラ砂漠を横断するくらい気が遠くなるような労力を必要としたし、簡単に言えることでもなければ言うべきことでもなかったので、彼女たちには適当な嘘を並べて訊ねてみた。誰にも連絡はなかった。希伊はまだ携帯を持っていなかったので、彼女らから希伊に連絡することも出来ない。更に希伊と初めて知り合った時の池袋のアルバイト先にも連絡を取ってみた。電話には当時二人を可愛がってくれた店長が出た。
「龍一かあ、おまえ元気してるか。たまには顔を出せよ。おまえは来れなくてもいいから、希伊ちゃんだけ来てくれてもいいぞ」
「店長久しぶり、ご無沙汰です。しかし店長まだ飽きずに店長してるんですね」
「うっせぇ。心頭滅却すれば火もまた涼し。一意専心、粉骨砕身、俺の長年の努力が認められてな、来期から本部付けの管理職に昇進だぜよ。おまえらが来た時奢ってやれるのも今のうちだけだぞ。とっとと遊びにこい」
「えっ、店長がスーツにネクタイですか。全く想像出来ないなあ。南極のペンギンが空を飛んでアフリカの猟師に撃ち落とされるくらい信じがたいことですよ」
「おまえ何言ってんだ。ペンギンだって努力すれば空を飛べるはずだよ。あいつらきっと努力が足らないんだよ」
「そうか。だったら北極のシロクマだって努力すれば、ハワイに別荘を構えて週末はワイキキでバカンスを楽しむことだって可能なんですね」
「うむ。そういうことだ」
当時と同じく気心の知れた会話は今も健在だった。店長は龍一と希伊が同棲していることは知っていた。バイトを辞めてからも結婚式には必ず俺を呼べよとまで言ってくれていた人だった。慎重に理由は伏せて、それとなく希伊のことを訊ねたがやはり知らなかった。
また、警察に捜索願いを出そうかとも思ったことがあった。中野区の交番の前を通りかかった時に思わず警察官に声をかけそうになったが思いとどまった。配偶者でも肉親でもない同棲相手の男が申請しても、すんなり受理してくれるとは考えにくい。それどころか、どうせ喧嘩別れでもして女に逃げられた哀れな男だろうと見なされて冷笑されかねない。いや、下手をすれば根拠もなくストーカー扱いされて逆にブラックリスト入りされる可能性だってある。昨年の桶川事件を契機に今年の五月にはストーカー規制法が成立したばかりだった。警察の怠慢な対応も世間的に問題視されて、法の施行はまだだったが警察当局だってストーカー問題には神経を尖らせているはずだ。更に龍一の頭に浮かんだのは興信所や探偵事務所に依頼することだったが、龍一の給料と蓄えではそんな金を捻出することは出来なかったし、たとえ依頼しても見つかる可能性は低いだろうと思ったのだった。

万策尽きた、とはこのことか。もう踏切を渡れば自由が丘の駅前ロータリーだった。入社して間もない頃設計アシスタントを務めた、左手にある高級子供服専門店を横目で見ながら改札へ向かった。希伊と普通に結婚して子どもをもうけたら、もしかしたらこの店で幼い子の洋服を買っていたのかもしれない。そんなことを思いながら、ポケットの中の、かな江から渡された紙切れをもう一度強く握りしめた。
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2016年10月17日月曜日

小説「月に雨降る」27

龍一がかな江の横顔を窺うと、丁寧な言葉遣いとは裏腹に、どこか楽しそうに目尻を下げていた。いたずら好きの女の子が同級生にドッキリを仕掛ける時みたいに。とりもなおさず希伊もそんな明るい性格だった。つい一ヶ月ほど前、残業で遅くなり灯の消えた暗いアパートに帰った時に、急に後ろから希伊が抱きついてきて龍一を驚かせたことがあった。互いに向き直ってからびっくり顔の龍一を見て、いたずら好きな小学生のようにからからと笑い、改めて豊かな胸を龍一に預けて抱きついてきた希伊だった。
「城崎さんは希伊のことを希伊ちゃんって言うんですね。なんか安心しました。さっきの永山の奥さんは会話の中で一切名前を言わずに、ずっと希伊のことを『あの子』とばかり言ってましたが」
かな江はにっこり笑うと言った。
「私と希伊ちゃんとの関係は、ただの家政婦と雇い主のご令嬢の関係ではございません。
私が永山家に家政婦としてお世話になったのは私が二十歳くらいの頃からでした。あれから二十六年間ずっとです。あら、私の年がばれましたわね」
かな江は龍一に顔を向けて続けた。
「神島さん。二十六年間という数字で思い当たることはございませんか」
龍一の頭に何か引っかかるものがあった。自分も希伊も二十六歳だ。
「あっそうか、希伊がこの家に引き取られて来た時から城崎さんは家政婦として勤めているんですね」
柔和な顔でかな江は頷いた。
「そうです。つまり私は希伊ちゃんのお守役みたいな形で雇われました。当時家政婦は二人いたんですが、赤ん坊が一人増えて専任で面倒を見る女性が必要だろうとのことで。普通なら経産婦で育児経験のあるベテラン女性が良いのでしょうけれど、永山家との遠い縁故関係もあったり、短大を出ていわゆる家事見習いで就職することもなかった若い私に白羽の矢が立ったんです。二人の家政婦のうち先輩の一人と交互にお世話をすることになりました。もともと子ども好きだった私は希伊ちゃんのお世話に夢中になりました。さすがに母乳を与えることは出来ませんが、夜中にミルクを作ったり、おむつを替えたりもしましたんですよ」
その時あの奈津子という人はのうのうと暖かいベッドで安眠を貪っていたのだろうか。そのことは考えないようにした。また気分が悪くなりそうだったからだ。
「私は希伊ちゃんとあの家で一緒に育ったようなものです。奥様は養女である希伊ちゃんを養母として育てるというよりは、悪く言えば管理するような感じで、本当の育児や一緒に遊んだりご飯を作ったりは、私が中心になってやりました。先輩家政婦にいちいち訊いたり一生懸命育児や料理の本を読んで勉強したり。小学生になっても中学に上がってからも、宿題を見たり思春期の悩みを聞いてあげたりと、私はうんと若い母親のような、或いはうんと年の離れた姉のような、そんな不思議な絆で繋がっていたんです。希伊ちゃんも表面上は奥様の言うことを忠実に守りながら、本当に心を許していたのは私だったと思います。あの日曜日に家を飛び出して行った時も最後に私に、かな江さん今まで本当にありがとう、かな江さんのことは一生忘れませんって言って、泣きじゃくりながらお互い抱き合いました」
それを思い出したのか、かな江の声には湿り気が帯びて少し鼻をすすった。
そうだったのか。希伊はこの城崎という女性に可愛がられ、人並みにちゃんとした明るい女の子にすくすくと育ったのに違いなかった。産みの親よりも育ての親と言う。いや少し違う。金沢の顔を知らぬ両親の血を受け継ぎ、本当の育ての親である、かな江の愛情でしっかりと希伊という人格が育まれていったのだろう。
「あら、いけないこんな時間。別の家政婦さんにすぐに戻って来るからと言って神島さんを追いかけてきたんですけど、もう帰らなきゃいけません」
「追いかけていらしたのは、僕にわざわざ城崎さんと希伊とのことを話すために?」
「はい、もちろんそれもありますが」
かな江は龍一からちょっと目をそらして、何かを躊躇っているようだった。
「奥様は確かに希伊ちゃんの居所は知らないと思います。旦那様も諦めてしまったと思いますが、もし直接旦那様にお会いになるお気持ちがありましたらと思いまして」
そう言ってかな江がポケットから取り出した紙片には090で始まる番号が書かれてあった。
「旦那様は仕事用と個人用と携帯電話を二つお持ちです。私には緊急の用件の時だけ個人の番号へかけるようにと言われてまして、この番号を教えられました。他人である神島さんにこれを教えることはいけないことは重々分かっているんですが」
「分かりました。ありがとうございます。もしこの番号にかけることがあっても、決して城崎さんにはご迷惑にならないように気をつけます」
紙片を受け取った龍一は頭を下げて礼を言った。それに対しかな江は龍一よりももっと深々と頭を下げた。
「でもどうして初対面の僕にここまで親切にして下さるんですか」
「だってあの希伊ちゃんが選んだ人ですもの。悪い人なわけがありませんわ」
それにと言ってかな江は言葉を続けた。
「神島さん。もし希伊ちゃんの消息が分かったら私にも是非お知らせ下さいませんか」
龍一はにこりと笑みを浮かべて言った。
「もちろんです。今までの城崎さんのお話を伺った以上、所在が分かったら真っ先にお知らせするのが当然の義務だと思ってます。本当の育ての親ですもんね」
二人は互いに携帯番号を交換して別れた。

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2016年10月16日日曜日

落ち葉舞う頃

このところオトナの諸般の事情というやつで、フレンズには行ったり行けなかったり。来週末はまた連合クラブJrの決勝があるのでココロはそちら方面へ向いたりしちゃっているんである。今日、日曜は行けた。顧問のKanedaさんとも久しぶりの対面。
「テッシー、何?奥沢神社?俺、昔奥沢に住んでたことあるんだよ」
「ええ〜!?」
小説ブログをちゃんと読んでもらっての会話なんであった。筆者は1ヶ月ほど前に同い年の友人(仕事仲間でもある)が奥沢病院に手術入院し、それを見舞った帰りにすぐ近くの神社に寄ったのだった。自由が丘は若い頃から何度も行っていたが、奥沢はそれが初めての地だった。その時はまさかこの奥沢神社を小説に使おうとは考えもしなかったんである。のちのち希伊の実家が自由が丘ということもあり、この神社のことを登場させようと、書いているうちに閃いたのだった。小説に登場するこの鳥居にからみつく龍のような大蛇は、お話の最後に重要なキーポイントとして再登場するはずだ。ただし、それがいつになるかは神の味噌汁...じゃない、神のみぞ知る、なんである。


おっとどっこい、少年野球ブログなんであった、今回は。
あじさいリーグVS寺尾ファミリー戦。六年生は連合で間に合わないかと思いきや、ギリでセーフ、久々のオールAチームで臨むことができた。


おやおや?
ベンチにOhshiroコーチがなにやら神妙な顔つきでスコアラーInoueさんに訊いているではないか。スコアラーの勉強を始めたのだった。事情を聞くと息子のRuiが通っているシニアチームではお父さんもスコアラーをやらねばならないのだそうだ。それで必死に勉強していたんであった。彼はどうにもペンを持って学習する姿は似合わないのだが、結構真摯にシートに向き合っていた。
色黒なのに(ゴルフ焼けか)ひげの濃さが目立つワイルドオヤジなんである。最近「りゅうちぇる」という奇妙なタレントがTV画面を賑わせていて、「ひげ濃いキャラ」を前面に出して売りにかかっているが、このOhshiroオヤジもまた、かの「ちぇるちぇるランド」の出身なんである。

6年生ふたり。連合も敗退しFももうじき引退ではある。

校門近くに珍しく鳩がいた。普通とちょっと違う羽根模様。なんだかスズメバチの巣を連想させる。

低学年のKazukiが三塁ランコーに。この子はどうにも憎めないキャラなんである。遠くから見ていると思わずニンマリしちゃうような、ココロの底がホッコリしちゃうようなモッチャリした笑顔の持ち主なんである。

おやおや?
何やらエライ人口密度が高いスポットが出現していた。越冬する小動物が狭い穴蔵で身を寄せ合うように。

おやおや?
フレンズの誇る美人妻軍団が「6年生を送る会」の打合をしているのだろう、たぶん。落ち葉舞うころ毎年この時季目にする光景である。こちらも人口密度がハンパない。
日本人女性みんなで日本列島を離脱しバチカン市国に移住したみたいに。

最後は恒例二組にわけてのベーランリレー。
筆者帰り際に数人を活写。
これから連合クラブJr決勝、オレンジ決勝トーナメント、そしてその向こうにいよいよ新人戦が控えている。今年も先が見えてきた。筆者もかなり焦らなければいけない時季となった。

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