「プレイッ!」
主審の右手が挙がりいよいよ試合開始だ。先攻は麻生シスターフレンズ。Hinataの切れのある速球が1,2番打者をキリキリ舞い、連続奪三振である。しかし3番打者にライトオーバーの特大スリーベースを打たれた時は一気に緊張が高まる。だが続く4番のショートゴロを名手Yumiが華麗にさばきなんとか無失点に抑えたのだった。
対する我が軍Queens、先陣を切って打席に立つのはQの大エースHinata。守備番号1、背番号1、の1番バッター、1番づくしである。フルカウントまで粘るも7球目を見逃し三振。
続く打席はAyano。ツーストライクに追い込まれながらもサードへの内野安打で見事出塁。更に2盗を決めて一死2塁の早くもQueens先制のチャンス。
3番は主将でチームの要Himariの打席。横浜ベイスターズガールズ、大宮球場を所狭しと駆ける大車輪の活躍の姿は今でも記憶に新しい。相手投手は中学生と言っても十分に通用する体格の大きな豪腕速球派投手。やはりツーストライクに追い込まれてからの4球目はあえなくPフライに。二死2塁に変わる。
4番は投手の気迫に負けないくらいのQueensのいやアジアの主砲、Akariだ。その打席の構えから発散される「打つぞっ」のオーラはハンパない。ピッチャーはここまで3打者に対し14球投げて11球ストライク、三人とも初球は全てストライクから入っている。Akariはそれを知ってか知らずかその絶好球の初球を思い切り振り切った。白球は大きな弧を描き左中間を真っ二つ。2塁からHinataは余裕のホームイン、打ったAkariは全力でダイヤモンドを駈けて見事タイムリースリーベース。奇しくも1回の表裏で互いの4番打者のバットが明暗を分けた形になった。
続く5番Ichikaにも追加点の期待がかかったが、相手投手Yuri選手の豪腕に打ち負けてショートフライに倒れた....。
こうして1点先制のさい先よいスタートを切った宮前Queensであった。
通称秋季川少連大会。正式には「かわさきジュニアシスターズ軟式野球大会」
Q広報の筆者は初戦は観戦出来ず、この2戦目からの従軍カメラマンとなった。相手は強豪「麻生シスターフレンズ」我が軍は「宮前スマイリーズ」と名を変えての対戦。Sohma会長曰く、相手はバッテリーを組んでいる4番5番の二人の選手が勝負の鍵を握るという。事実Hinataの被安打8本中7本がクリンアップ打線に打たれている。試合が始まる前は両軍ベンチ選手、8万5,000人の観衆ともに笑顔が絶えない空気があったが、いざ始まると開始早々から緊迫感漂うものとなった。
1回の裏、ウグイス嬢から守備についた選手紹介がある。実はうちはNoeriなどを欠いてベストメンバーではないのだったが、それを埋めてくれる選手層の厚さがある。ウグイス嬢の音声をそのまま活字にしてみた。
「1番ピッチャー〜Hinataさん」
「2番セカンド〜Ayanoさん」
「3番キャッチャー〜Himariさん」
「4番ファースト〜Akariさん」
「5番サード〜Ichikaさん」
「6番ショート〜Yumiさん」
「7番ライト〜Misakiさん」
「8番センター〜Yumaさん」
「9番レフト〜Fuukoさん」
なんである。せっかくなのでこれを写真で守備陣形どおりに夜を徹して作ってみちゃったのがコレ。控え選手も含めて野球以前の「笑顔と可愛らしさ」の勝負なら全国大会レベル、戦わずとも優勝間違い無しなんである。
試合会場は宮前でも馴染みの深い多摩川河川敷球場。多摩川を挟んで東京世田谷側の巨大なタワーマンションにはドデカい応援の懸垂幕が3本。おそらく連盟の苦しい台所事情から予算を捻出して、Q事務局のSasakiさんか連盟のNishimuraさんあたりが発注したに違いない。筆者の見積ではマンション住民へ配付する手ぬぐいから一晩で施工するための職人の労務費、懸垂幕制作費含めて総工費620万円(消費税別)であろうか。
1回裏にQが先制点を挙げたものの、その後3回にHinataに2塁打が飛び出しただけで、相手投手の豪腕に押さえ込まれる展開に。逆に投手で4番のYuri選手はとてつもない打球のセンターオーバーのスリーベースを放ったり息の抜けないゲームとなる。
ついに5回表、相手打線に捕まる。下位打線からの攻撃だったが7番先頭打者に中前安打を許し走者を出すと、失策がからみセカンドゴロの間についに同点に追いつかれる。逆転の走者が3塁。2死からHinataの牽制球が3塁手Ichikaへカミソリのように飛ぶ。
タッチ....アウトッ。9万2,000までふくらんだ観衆から悲鳴と歓声の入り交じった大音声(だいおんじょう)が響いた。
しかし同点に追いつかれたその裏、Qの攻撃はMisakiから。連続失策で走者を溜めるも捕邪飛でワンアウト、2塁から3塁へ到達していたMisakiは2塁へ戻れず2-6Bでホースアウト。ところが打順が1番に返りHinataの単打とAyanoのタイムリーツーベースが飛び出し2点の勝ち越しに成功す。3:1になった。
一喜一憂のQueensベンチと抱き合って喜ぶ母たち、控え選手の応援も熱が入る。
ところがなんである。
興奮覚めやらぬ6回表にはクリンアップからの3連打をくらってまた2点を返されて再び3:3の同点、振り出しに戻った。4番Yuri選手には十分すぎるほど警戒し外野をバックさせたのだが、それをも凌駕(りょうが)して余りある脅威のセンターオーバー。中学男子でもなかなかあんな打球は打てまいと思われるほどだった。目の覚めるような素晴らしい打撃、敵ながらアッパレなんである。
群れから少し離れてドカンと椅子に腰をおろし観戦するSohma連盟会長。ついさきほどまでタワーマンションの屋上に座ってグランドを睥睨(へいげい)していたのだったが(^-^)人間も大きい人だがガタイもでかい。パイプ椅子が10cmほど地面にめりこんでいた。
東急田園都市線の電車には、この日だけのQueens応援広告ロゴを貼った特別電車が運行されていた。宮前区少年野球チームに関わるオトナたちははみな東急田園都市線を利用する上得意客なのだ。おそらく東急が宮前少年野球連盟の日頃のご利用に感謝しての粋な計らいだったに違いない。
ところがなんである、のPART2なんである。
更にその6回裏のQueensの攻撃は主砲Akariがレフトオーバーの大飛球ツーベースで出塁、Yumiの打席で相手遊撃手失策、暴投がらみで1点加点しまたまた勝ち越しに成功。
その後そのYumiも伏兵8番Yumaのタイムリーで本塁を踏む展開に。
7番Misakiは大鉈(おおなた)を振るうような、あるいは剣道のメンで一本を取るような打撃フォームのQ屈指のパワーヒッターである。打ちに行った手の甲に球が当たりコールドスプレーの出番。結局は四球を選び出塁、更に盗塁。その間タイムがかかりちょっとした珍場面があった。サインを確認したい彼女のもとへ伝令が走り、観衆の注目を浴びることに。衆人環視のもとまた緊張しちゃう。更には彼女の脳裏には前回の暴走に近いホースプレーアウトの場面もよぎり気持ちはいっぱいいっぱいだったはずだ。おそらく気が動転していたのかもしれない。2盗のあと先ほどのYumaのタイムリーで本塁まで一気に全力疾走。3塁ベースを蹴った瞬間彼女の胸に去来する思いはきっとこうだったはず。
「アタシ、これでいいよね?本塁まで走っていいよね?間違ってないよね!」
無我夢中の本塁へ必死のスライディングで生還。遠くのギャラリーから大歓声が聞こえてきた。
それを聞いたとたんに....一気に涙が込み上げてきた。
実際本当に手が痛かったけれど、本当の涙の理由は極度の緊張から解放されて、みんなに笑顔で迎えてもらったからだ。涙の理由を知られるのがなんだか恥ずかしくて、手の痛みのせいにしよう。チームメイトのAkariが肩を抱いてくれて母のところへ連れて行ってくれて。そしたらまた止めどなく涙が溢れてきてしまうMisakiだった。
この一連のMisakiの心情は筆者の類推と想像による記述。数日後この件に関する近親者からの極秘情報を入手したその内容は、見事にそれを証明立証するものだった。我々大人が思ってる以上に、その見掛け以上に、子どもたち、特に女の子は極度の緊張の中でプレーをしているのだった。でもこの経験は彼女らの心の成長に大きく寄与しているはずだ。反して彼女の涙を見て筆者は指導者の端くれとしてとても良い勉強になった。ありがとう。
6:3のダブルスコアで迎えた最終回。
7回表の麻生の攻撃を抑えれば後攻のQは勝ちだ。Misakiに代わり守備を入れ替えセカンドにはSunaoが入る。緊迫の空気感に包まれながらプレーのコール。6:3と言えば多少勝ちが見えたような安堵感があるものだがこの試合は点差以上の緊迫感があった。いつまた同点にされるとも限らないわけで。2度も同点に追いつかれているのだ。ワンアウト後2番打者が四球で出塁。このままではまた麻生の脅威の超重量打線クリンアップに回ってしまう。予断を許さない緊張感に包まれるQueensベンチと応援団。この頃筆者の手元に回ってきた情報によると観衆は10万人越えを記録していた。
ここからは主将でキャッチャーのHimari目線である。
四球の走者を1-3-6T.Oの挟殺プレーでツーアウト。あと一人だ。
しかしこの日打棒爆発の3番の選手に右前安打を打たれて走者を出してしまった。次は3の2、今日3塁打と2塁打を打っている例の4番Yuri選手だった。Hinataの投球もすでに83球を超えている。体力と握力も限界に近づいているかもしれない。
「アタシは今日は良いところがなかった。チャンスで全然打てなかったし、自分のセカンド悪送球が遠因で失点してもいる。でも主将の自分が不調でもみんなのおかげでここまで来たんだ。絶対勝つぞ!」
4番打者はチラチラこっちを見ている。Hinataにサインを出すのはギリギリまで待とう。走者のリードも大きい。これは初球から絶対ランナーが走ってくると直感した。今度は絶対刺してやると思った。今までのミスを返してやるんだ。同時にチームメイトのみんなへの恩返しだ。Hinataがセットポジションに入る。打者もマウンドを向いた。
今だ!Himariはすかさず外角高めのボール球を要求するサインを送った。瞬時にHinataも理解した。やはり予想どおり1塁走者は2塁へスタートを切った。
ドンピシャの絶好の球、ミットのボールを右手に持ち直す動作ももどかしく思い切り腕を振り抜いて投げた矢のような送球は、交代で入ったばかりのセカンドSunaoがカバーに走り、ショートYumiが2塁へへダッシュする。白球はYumiのグラブへ吸い込まれた。ランナーが猛然とスライディングしてきた.............。Kitamatsuスコアラーの記述は(2-6T.O)。
一瞬グランドが静寂につつまれる。
アウトッ!
この結末はすでに昨日のブログで書いた。Himariの上記プレーも、筆者が実は後日近親者からの極秘情報を入手したものに基づいて心情を加味した記述である。ほぼ事実に基づいている。驚いた。こんなに女子野球のレベルが高いとは。いや同時に、Queensのレベルが高いのだ。こんな素晴らしい野球を見せてくれた可愛い女子たちに心から感謝したい。MisakiやHimariの号泣には理由(わけ)があったのだった。
下の写真中央。普段ポーカーフェイスで投げるHinataの表情が力を振り絞るように苦しそうにゆがんでいた。捕手Himariのサインに応えるため渾身の速球で外角高めに投げた最後の一球である。後ろのショートYumiも盗塁を察知してすかさずセカンドに走っているのが分るだろうか。大声で「走ったっ!」と叫んでいるようだ。Qの応援団では何人かが人差し指と小指を立ててツーアウトをコールしている。これは撮れるべくして撮れたゲームセット直前のこれらの場面を活写したものだった。
「集合!」
主審のコールでゲームセット。歓喜と落胆で明暗の分かれる両軍ギャラリー。少年少女野球では全国どこにでもある光景だが、これはQueens史上に残る印象深い試合のひとつであった。女子たちは抱き合って泣き、母たちも抱き合って泣いた。男たちも感動を分かち合っていた。
試合後麻生シスターフレンズのKatsukawa監督が、Kasahara代表に握手を求めてきた。
「Kさん、決勝で負けたら承知しませんよ。我々のぶんも頑張ってきっと勝って下さい」
粋なオトナのエールというものだった。
そのあと野郎どもは予定外の大宴会に突入したのは言うまでもない。
筆者の今週末の予定は、Queensの優勝で昼も夜もスケジュールがすでに埋まっているのだった(^-^)/
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