今年の前半は息子の結婚、二人目のマーゴMiuの誕生、そしてMinamiが白血病を克服して無事退院と良いことづくめではあった。しかしこれに比べれば些細なことだが、今年後半はその反動で財布はなくすは、配偶者は先日分割がたっぷり残っているiPhoneはなくすは....。そして極め付きは10月に仕事のクライアント社長が亡くなり、会社が闇金融の手に渡って、我々債権者ブレーンへの支払いが全面ストップ、闇金相手と戦うという費用対効果を考慮すると簡易裁判所へ訴え出ることもままならず、皆泣き寝入りするしかなかったんである。8,9月に土日返上でがむしゃらに働いたギャランティーが全て10月入金だったため全額灰色の雲の彼方へ消えた。しばらくの期間は視線が宙を彷徨い、ついて出るのはため息ばかりなり。10月は茫然自失であった。
さて歳も押し詰まる師走の27日の今日。もうひとつの凶事がおきちゃったんである。
ここからは「血」が苦手な方、そして良い子の小学生は遠慮したほうが良いかもしれない。多分に自虐的なネタの顛末を軽く書いてみるつもりではあるけれど。
きのう一昨日の2日間で電話が数本あり、年明け早々から仕事の依頼が山ほどきちゃったんである。赤坂の100坪の飲食店をプロジェクトチームを組んでやる仕事の他、武蔵小杉、川崎ラゾーナ、入札物件などだ。大小様々とはいえ全部同時には一人では請けれないだろう。とはいえありがたい話ではある。今日の午前中は見積書を一件メールし、あとは昼メシ前に台所の床の電気配線をモールを設置してやろうとしていたのであった。モールというのは細長いプラスチックのベースを床に貼り、そこに電源コードを這わせて上からまたカバーをかぶせるアレである。カッターで切るにはプラスチックとはいえ固いので結構骨が折れる作業である。
筆者会社勤めのころはプレゼン前夜に会社で徹夜して、カッターで仕上げのプレゼンボードを正確に速く何枚も切る作業などには自信があった。「一級カッター士」「カッティングの魔術師」「ゴールドフィンガーを持つ男」と社内で噂になり、いつしか周囲からそう呼ばれ........ることはなかったので、自称なのだけれど。このプラスチックのモールは堅物ではあるが過去に何度も切った経験があるので、少し油断していたのである。大工が使う大型のキレキレのカッターでおもむろに作業に入る。
「ガキッ!」
くそっ力を入れ過ぎたかな、刃が床に当たり失敗したかなと思ったまもなく、何か床に転がっているのが目に入った。
「なんじゃこりゃ?」
肌色をした小さなナメクジのようなものの正体が、自分の指の一部だと気がつくまで1,2秒かかった。見たこともないような勢いで血が溢れ出す。こんどこそ松田優作ばりに「なんじゃこりゃ〜!!!」なんであった。右手で握ったカッターの刃が床に当たる寸前に、滑った右手の人差し指が入り込んでしまったのだ。縦方向斜めにスッパリと指先の1/4が切り落とされてしまったんである。そのカケラには綺麗に爪の一部も含まれている。もう少しで骨にも届いていたかもしれない。一瞬ではあるが、映画「ブルーベルベット」の冒頭、草むらに落ちている耳の切れ端のシーンを妙に冷めた頭で回想していた。
出血と同時に激痛が走り我に返る。右手がどっくんどっくんしている。その音が聞こえてきそうなくらい。水道で水に流すと勢いでシンク周りに血が飛び散る。次に気が動転し焦りまくった。一般的に女よりも男のほうが血を見ると弱いのだそうだ。学説によると女は以外に神経が太いのと、毎月の自身のもので見慣れているからなのだそうだ。筆者には生理はやって来ない、がしかし自分で言うのもなんだが、案外冷静であった。すぐに輪ゴムで第2関節をぐるぐる巻きにし止血、救急箱から粉末状の消毒剤を取り出し散布し、ガーゼを当てて包帯を厚めに巻いた。更にふと思い立ち、指のカケラをサランラップに包んで病院へ持って行こうとも思った。その間頭の大半を占めていたのは怪我のことよりも、来年からの仕事のことであった。マウスとキーボードの操作に支障をきたすことを思うと暗澹たる気分であった。
ネットで付近の外科病院を検索し、一番近くの総合病院に電話した。指を1/4ほど切り落としたという表現にひるんだのか、手術出来る医者が今日は不在で駄目だと断られた。電話の女性は申し訳なさそうに川崎の救急センターの番号を教えてくれた。全く恨む気もしない。遠くの病院へ行けとなるのも嫌だったので、次に駅前のある病院へ電話した。今度は「1/4切り落とした」ではなく「1/4切ってしまった」という表現にしたのは言うまでもない。OKだった。しかし午前の受付 終了まであと15分しかない。不自由な右手で原チャリアクセル全開、間に合った。
同年輩と思われる感じの良い医師が指を見て、
「ほう、こりゃ随分大きくいきましたねえ。切り口がスッパリ綺麗に」
筆者は「ええ、だって俺一級カッター士だもん」とココロの中で返す。痛みは不思議にも台所での3分間のみで、あとは痛みを感じるよりは痺れのほうが勝っていたんである。
「保証は出来ませんが、たぶんくっつくでしょう。消毒No.○○、麻酔と針と糸用意して」と看護師へ指示。
人差し指の根本に2ヶ所麻酔を打つ。正直痛かった。しかしその時ふと頭に浮かんだのは、QueensのHimariの骨折のことだった。最初の晩は痛くて泣き叫んでいたそうだ。筆者の1億倍も痛かっただろう。小学生の女の子がそれを乗り越え元気に松葉杖をついて笑顔でジャイアンツ球場へ現れたときのことを想い起こした。その瞬間麻酔注射の痛みなどどこかへ吹っ飛んでしまったのである。不思議なものだ。ありがとう、ひーちゃん。
麻酔が効いて縫合処置も終わった。うまくくっつけば2,3週間。駄目なときは完治まで2,3ヶ月と言われた。またしても仕事の支障ばかり考え込んでしまう。会社員ならなんとでもなるが、フリーは生活に直結する一大事なんである。早速家に帰ってMacを起ち上げ、CADソフトで簡単な図面を描いてみる。マウスは包帯ぐるぐる巻きの人差し指を宙に浮かし、クリックは中指で。おおなんとかなるじゃん。かなりスピードは鈍るが仕事出来ない状況ではない。現にこうしてキーボードも叩けるわけで。中指というゴールドフィンガーは健在だった。人差し指はオールドフィンガーになっちゃったけれど。配偶者が言った「ピアニストでなくて良かったねえ」
残念なことに明日はQueensの忘年会なんである。今年は浴びるほど呑んでやるぞとめっちゃ楽しみにしてたのに、医者からは2,3日はアルコール厳禁を言い渡されているし、明日午後も通院しなきゃなんである。午前グローブを持って外野で球拾いをし、午後からQueens部室藍屋でオトナたち皆と酒を呑んで......1ヶ月前から楽しみにしていたプランは儚い夢となった。
事故ではなく自己責任だから、全くもって自分が悪い。
「一級カッター士」の免許は国庫に没収され「カッティングの魔術師」の称号は剥奪されても文句は言えない。それにしても利き腕の右指をやるかねえ。せめて左指だったらまだ救われたのに。
自分の不運を呪う年末の顛末である。とほほ....。
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