2016年7月23日土曜日

2016合宿in山中湖

早朝から隣の仕事部屋に置いたiPhoneのLINEが、ひっきりなしに「ぴこぴこぴん」鳴り止まぬ。今日はフレンズ合宿初日なんであった。LINEグループがばんばん溜まっていた。起きてから見ると未読数50を超える。フレンズグループLINEは過去のOB親も含めて、今や新旧取り混ぜて41人のメンバーになった。もともとは数年前に筆者が初めてLINEをやった頃、フレンズでBBQに行く時に道中の車の中から呼びかけて、母たちにLINEグループを作ってもらって情報を共有しようとしたのがきっかけだったかなと思う。あっという間にグループLINEができて、高速道路を走る数台の車のメンバーたちが、ひとつになった。これはチームの心をひとつにすることも目的のひとつだが、もうひとつは現場(合宿や試合や遠征など)に行ってない親などにもリアルタイムで、情報を提供出来るから良いのだ。
今日のフレンズLINEをひとつ一つ既読すると、あの夏の合宿の空気感が胸に迫る。
合宿、いいものである。当時作ったフレンズLINEグループアイコンはこれ。

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さてちょっと駆け足で行きたい。
午前中は久々にQueens練習で第四公園ドームへ。いろいろとあったので、行ってみた。今日は母体チームでの活動がいろいろあって参加人数は4名。そのうち一名は体験の子もいる。向ヶ丘キッズの3年生だった。その俊足にQスタッフは絶賛だった。

細かい丁寧な指導をするQ監督Koshimizuさんのノックを見ながら、Murata代表としばし談笑す。



このあと代表、監督、Satohさん、Yamaderaさんと昼飯を。
大変有意義で面白い昼メシであった。来週土曜はあのQのオトナのアイドル、Tanaka父が京都から帰ってくるらしい。飲み会開催決定であった。
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さてフレンズ合宿である。筆者はもちろん山中湖には行ってないけれど、アップされたLINE画像を見てるとおおよその想像はつく。実に楽しい。高速での道中にアップされた写真。美人バスガイド付きは毎年変わらない。マイクロバスを運転するのはOhshiroオヤジ。

山道を横切る鹿を見れば、大人も子どももみんな「きゃあ〜可愛い〜」となるのだが、このオヤジだけは違う。彼はよだれを垂らしながら「うまそう〜」なんである。

これはなんだ?
山中湖に行ってカプセルホテルに泊まるオヤジみたいだ。Takenakaオヤジ(^-^)

今年もグランドはあそこだったか。写真で見れば過去の記憶が蘇るってもんだ。宿から車で5,6分の野球場、サッカーグランドが何面もあるところ。山中湖は少年野球合宿のメッカなんである。富士山も見える。

昼メシタイム。6,7年前は着いてすぐゲリラ豪雨に見舞われて、この木立の下でずぶ濡れになって素振りを黙々とやったものだった。今日は天気はまずまず。しかし山の天気は侮れないぞ。
誰?LINEを見て驚いた。Yuutaじゃないか。オヤジの転勤でフレンズを途中で退部し今は名古屋にいるOBだった。名古屋からレンタカーで来て参加してくれたそうだ。

山の天気と、秋の空模様と、女心は変わりやすい。
昔から言われているが、実に言い得て妙、下の写真はミーティング中。少し向こうに霧がもやってる。

あっと言う間にこれ。たぶん明日の朝はもっとすごいぞ。ラジオ体操の時に富士山が奇麗に見えれば儲けものだ。

スナップショット。いっぱいあったが、誌面の都合上二枚のみ。
LINEにはこのブログ掲載の10倍くらいの写真がアップされている。

風呂に入り、夕飯までの空き時間。大人はすでにがっぷりビールを飲んでるはずだ。大部屋では子どもらがストレッチかな。4枚目写真はフレンズ紅一点の女子選手、三年のAnju。決して将来アイドルAKBに入るわけではないが(?)、学校ではめっちゃモテるらしい。
筆者、正直に言おう。合宿の楽しさはいっぱいあるが、練習終わって宿に戻り、ぐでぐでに汗をかいた体を持て余し、風呂と飯を待つほんのひととき、オヤジ野郎どもと冷たいビールを飲み談笑する、あのまったりした何とも言えない夕まぐれの時間が大好きなんである。あれが楽しみで合宿に行くと言っても過言ではないかもしれない。今年のオヤジどもはそれを満喫しただろうか。

晩飯は毎年恒例BBQなんである。これはNatsuki母が宿の二階から撮ったものだろう。さんざん肉を食ったあとの焼きそばがまたうまい。BBQにおける焼きそばというのは、なんであんなにうまいのか。日本の七不思議のひとつである。今年は山中湖花火大会はどうしたろうか。来週かな。このあとおそらく山中湖畔に行って花火をするんではないかいな。



おお〜、そう来たか。
どうやら監督Itohのバースデイだったらしい。おそらく母たちがサプライズでケーキを準備したようだ。素晴らしいアイデアではないか。昨年の伝説のSatoh監督から引き継いだOB、Itohくん、これからもフレンズを末永くよろしく、なんである。

そして夜も更けて子どもたちは就寝、オトナの飲み会開催なんである。
過去にこれでいろんなエピソードがあった。朝の3時まで飲んだこともあった。翌朝6時のラジオ体操にもへろへろで行って...。
今年の写真を送ってもらう。楽しくやっているようだ。

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筆者、明日は富士見台ウルフ全国大会壮行会なんである。
フレンズを離れて連盟広報として行くんであるが、明日以降は合宿と壮行会とバランスを見ながらブログアップしようと思う。
ではでは。
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2016年7月21日木曜日

サヨナラ内野安打

秋季大会ブロックリーグ戦、Dブロック一回戦は鷺沼ヤングホークスVS有馬フレンズなんであった。今年ヤングとは何度か戦い、勝ったり負けたりなんである。名門ヤングとはお隣さんということもあり、昔から仲が良い。グランドがない時などお互いに合同練習やったり、昔は山中湖の合宿にも合同で行ったりもした。(※今週末23から25までフレンズは山中湖での合宿である)

名門ヤングには大将のKurosu監督がいる。今や宮前ではその名を知らぬ者はいないであろう、名物監督なんである。その昔、筆者が渋谷の恵比寿西3丁目に設計事務所を持っていたころ、4階の窓から見えるすぐ近くのビルのひとつに相撲部屋があった。なんという親方のものだったかは覚えていない。そのビルの1階には信州そばの有名な店があったんである。昼飯に何度か通ったことがある。ずいぶんあとになって知ったことだが、そのそば屋で蕎麦を打っていたのが、なんとKurosuさんなんであった。当時の筆者はフレンズでは父コーチからOBコーチになる過渡期であったが、まだ名将Kurosu監督に声をかけるほどの勇気もなく、若干今よりも人見知り(良く言えば「シャイな性格」)だったので、ついに話すこともなく恵比寿時代を終えた。途中Kurosuさんも職場を変えたこともある。今にして思えば全く損をした気持ちでいっぱいである。当時勇気を出して厨房を訪ねて行けば良かったと残念に思う。もしかしたら監督と飲み仲間になっていたかもしれないではないか。
母たちはどうか知らないが、男の場合はかなりの確率で多くある偶然がある。それは朝の通勤途中の駅で同じチームのオヤジ同士が出くわしたり、同じ電車に近くの他チームのコーチと偶然乗り合わせたりなんてことが。筆者は以前、蒲田に新しい居酒屋を設計して現場視察したあと蒲田駅へ向かう途中で、当時のフレンズ監督だったOhtsuboオヤジに出くわしたこともある。また、やはり仕事の打合の帰りに確か大井町線だったかで、電車に乗ってつり革に掴まり、目の前に座っている乗客を見たら、Nishiharaオヤジがちょこねんと座っていたこともあった。鷺沼に着いて近くの居酒屋へ二人で直行したのは言うまでもない。

読者貴兄のみなさんのチームでも、こんなことってたくさんあることだろう。
「少年野球オヤジあるある」でした(^-^)

さてヤングKurosuさんの話からずいぶん脱線してしまった。秋季大会なんであった。

29番はベテランコーチ、絶妙な話術の持ち主のIshikuraさん、28番はSakoさん、偶然後ろに見えるのはQueensAyaka母でもあるKurashigeさん。彼女は某大学時代に○○大会で準○○になった美人さんで、Queensコーチでもあるダンナさんは某大学卒なんである。因にKurashige父は若き日の長嶋茂雄に激似なのは以前このブログで書いた。某ナニナニとか○○とかの記述は、本人たちの承諾もらってないので果たして書いていいものかどうか迷ったからである。あしからず、なんであった。
ヤングは昔からQueens姫の供給産地としても有名だが、多くの美人妻が生息する地域としても有名なんである。

さてヤングKurashige夫妻の話からずいぶん脱線してしまった。秋季大会なんであった。

今度こそ本題突入かとなるのだけれど、あにはからんや、写真がほとんどないのだ。筆者スコアラーだったからである。練習試合ならともかく、一応宮前公式戦ゆえカメラ撮影もサングラス着用も控えねばならないからだ。サングラスと言えば筆者の趣味は村上龍の「限りなく透明に近いブルー」ではなくて、「限りなく透明に近い薄い色」のグラサンなんである。これならサングラスではなく眼鏡と見なしてくれるんじゃなかろうか、と言うセコい思惑もあるのだが、それ以前に昔から薄い色、つまり人から見て自分の目がある程度見えるものが欲しかったんである。「目は口ほどにモノを言い」と言うではないか。相手に不快感や不信感を抱かせないために薄い色が好きなんである。近年で言えばジョニー
・デップやジョージ・クルーニーがかけているサングラス的な色が望ましい。かといってレイバンやEXILEアツシのかけているPOLICEなどは逆立ちしても手が出ない。というわけでここ数年Amazonで薄い色のサングラスをいったい何個購入しただろうか。思った以上に濃い色だったり、予想外に貧弱だったりするんであった。なのでまだ理想的なしかも安価なサングラスには出会っていない筆者なんである。但し太陽ギラツく外野フライを捕る際は濃い色のサングラスが良い。映画「マトリックス」に出て来る悪者がかけているような。

さてサングラスの話からずいぶん脱線してしまった。秋季大会なんであった。
今度こそ、お待たせ〜(^-^)
先発エースはヤングAsanoくん、フレンズは主将Kaito。

互いに二塁打一本ずつで迎えた3回裏Fは、四球に乗じて更に長短打3本で一挙4点先制。二死から打者の打ったファウルフライがふらふらとファウルグランドに上がった。取りこぼしてしまったY。これを捕っていればチェンジだったのだが、このあとFは4得点に繋げていった。責任感を感じて下を向き意気消沈する選手。しかしマウンドのAsano
くんは彼に「ドンマイ」と声をかけた。(実際はなんと言ったかは聞こえなかったけれど)

4回今度はヤングが反撃開始。2本の連打で1点を返すと更に5回には9番1番の連打で走者を溜めると、3番Kitagawaくんがツーナッシングから五万の大観衆が待ち受けるスタンドへスリーランホームラン。終盤での衝撃的な同点劇だった。

同点のまま迎えた最終6回裏。ブロックリーグでは特別延長はない、同点のまま終わる、.....はずだった。
Fの攻撃は二死、三塁走者あり。
Shohmaの打席、2B1Sからの4球目を強打した打球は三塁線へ、三塁手猛ダッシュで一塁へ送球.....間一髪で。

塁審Katsuさんの手が水平に伸びきっぱりとコールした。
「セーフ!」
サヨナラ内野安打だった。

試合後ヤングKurosuさんとIshikuraさんと煙草談義。互いにミスを連発し互いに長打を連発し。結果はFだったけれど、反省点も多い試合だったねと。打撃ではほぼ互角の良い勝負だった。

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2016年7月20日水曜日

小さなエラー、大きなドンマイ

秋季大会ブロックリーグ戦なんである。まずは宮崎台バーズVS白幡台イーグルス。筆者は言葉の妙に気づくとどーしても書きたくなっちゃう、困った性格なんである。ナニか?バーズ=鳥に対してイーグルス=鷲(ワシ).....つまり鳥対鷲の戦いなんである。これはいったいどーしたものだろう。鷲は鳥の一種であるが、こともあろうに鷲一羽で鳥全種類を敵に回すことになるんである。もしここに鷺沼ヤングホークスが加われば、鳥VS鷲VS若鷹の鳥づくしになっちゃうのだった。こうなっては、取りつく島もない。

詳細はもちろんお伝え出来ない。スコアブックはないし、写真取材を主とするので、戦況を観察する余裕はないんである。なのでほぼ写真と印象で文章展開する。

試合前に宮前区長、野本さんによる始球式。すでにここで何度目かのマウンドになるはずだ。笑顔が素敵な女性区長さんだ。きっと男性ファンも多いに違いない。筆者もその一人である。横にいてコールする審判は実直なHatanoさん。Queensを卒業してもなお審判として連盟に残っていただいた貴重な人材なんである。

両チーム先発投手。

バーズベンチ。試合前にKawataさんやYoshikawa夫妻と談笑。


ふとバックネット裏の本部席に目を転じると、Matsui副会長が手塩にかけ丹青込めて作ったトマトを頬張る面々。むしゃむしゃ、じゅるじゅる、ごっくん。Tsunoda、Nishimura、Nishiharaの三氏。口々に「んっま!」次回は筆者もお呼ばれしたいものだ。夏の日のとある一日に、新鮮なトマトにかぶりつくことほど幸せなことってあるだろうか。(※他にもいっぱいあるけどね)

イーグルス監督は大ベテランのWadaさん。挨拶励行は徹底しており、それを真っ正直に自ら実践されている方だ。勝っても負けても試合後は本部席へ歩み寄り「ありがとうございました」と頭を下げる。凡人にはできないことだ。

試合はイーグルスの一方的な展開だったように思う。

故高橋さんのお母さん、Kentaくんのおばあちゃんも観戦にいらした。そんな中相変わらず一番元気な声を出していたkentaくんだった。

QのHinataもとうとう一軍に招集されてAチームのメンバーに。慣れないマスクとレガースを付けてセカンドキャッチャーの任を全うする。


ゲームは5:0でイーグルス。いつものバーズらしい元気なプレーが見られなかったと感じたのは筆者だけだろうか。とても残念であった。
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第一公園第二試合は神木マーキュリーズVS向ヶ丘サンダース。
こちらは水星またはギリシャ神話の神。対して雷。なんだか宇宙創世記のカオスを彷彿とさせる感、ハンパないではないか。

マーキュリーズについては多くを語るまい。立派な少年野球チームである。エース主将Gomikawaくんのその投球は宮前でも屈指のものだが、それにもまして特筆は、どんなに周りのチームメイトがいくらエラーしても腐らず、いやそれどころかエラーした小さな選手に笑顔でドンマイと声をかける大きな心をもった子なんである。思わず素晴らしいピッチングに目を見張ったものだが、筆者は彼のこのマウンドでの態度のほうに大いに感動したんである。

さすがのサンダースも彼のスピードボールに手こずり大量得点とまではいかない。がしかし、徐々に得点を重ねる展開に。サンダース主将Yazawaくんもまた小さい体躯ながら、実に素晴らしい選手である。「ちいさな巨人」とは彼のために用意された言葉か。


ひょこたんひょこたん、ベンチと本塁を往復する子がいた。大会察冊子をみると一年生がふたりいるので、どちらの子かは筆者には分からないけれど、どーよ、見てくれこのちっちゃい子。レガースの膝当て部分は太ももにかぶさり、ぶっかぶかの防具を身につけている。それでいて、試合を真剣に見る眼差しはとても素敵だった。可愛くてイケメンな野球少年なんであった。それを温かく見守る大人やベンチスタッフ。実に良い画が撮れた。

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二試合書いてここではたと迷った。
まだヤングVSフレンズの試合がこのあと場所を移して有馬小ドームで開催されたんであるが、書くか書かざるべきか...。

う〜ん。

今日は今からシャワー浴びて冷たいビールをかっくらいながら、かねてより観たかった、デンゼル・ワシントンの「フライト」に食指が向いてしまった。Amazonプライムでタダで鑑賞出来るんである。

であるからして、また次回なんである。
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小説「月に雨降る」14

月に降りそそぐ雨に存分に打たれた。神島龍一の視界には灰色のぼんやりとした景色が広がっていた。そこからは太陽も地球も見えなかった。希伊はどこに行ったんだ。そして今自分はこの月の上で何をしているのだろう。
頭の中から自分の意思を追い出し、自ら無になろうと舗道に佇んでからいったいどれだけ時間が過ぎたのだろうか。全身がずぶ濡れになり両肩は痺れるように冷えてくる。すると急に視界の上部が黄色いものでおおわれた。
「おう、あんた、大丈夫か、あん?」

黄色い傘をさした老人が上から龍一を見下ろしていた。黒い野球帽をかぶり上下とも作業服のようなグレーの服を着ていた。それはまるで灰色の世界から背景の一部が切り取られ、ぬらりと現れた実体のない塊のようだった。焦点の定まらない龍一の目を見て、こいつには言葉を発する意思がないと思ったのだろうか、老人は続けた。
「あん、大丈夫かっつってんだよ兄ちゃん。車にでもはねられたか。電話で救急車呼ぼうか。おう、そうだ、俺は最近流行(はやり)の携帯電話つうの、持ってねえけどよ」
老人は前歯が2、3本抜けた口を盛大に開けて、雨樋の奥に枯れ葉が詰まったような音をたててひゃらひゃら笑った。黒い顔の目尻に刻まれた皺は、年季の入った絞りたての固い雑巾を思わせた。雨はやっと小降りになってきたが、彼は自分が濡れるのは一向に気に介さずずっと龍一に傘をさしていた。正気に戻った龍一はやっと言葉を発した。
「すみません、ありがとうございます。大丈夫です」
「おう、あんた、どう見たって大丈夫って顔してねえけどな。ぼく大丈夫じゃないですって顔にマジックで書いてあるぞ。ほれ、鏡で見てみるかい。おう、俺、鏡も持ってねえわ」
老人はまたごぼごぼ笑った。水道管の奥に小石が詰まったような音がした。龍一はやっと立ち上がって改めて老人に頭を下げて礼を言った。
「声をかけていただいて本当にありがとうございました。おかげで少し元気になりました」
「おう、ちったあ元気になったかい。だけどあんたぼろ雑巾みてえな顔してるぞ」
じいさんこそ目尻の皺が雑巾みたいだと言いそうになって、龍一はちょっと可笑しくなった。
「ああ、やっと笑ったな。何があったか知らねえけどな、兄ちゃんまだ若けえんだからよ、頑張んなよ、おう」
やたら「おう」を連発するじいさんだった。自分の言葉に調子をつけるように、会話を円滑にするために加える潤滑油のようだった。
「おう、いけねえ電車に乗り遅れっちまう」
雨の日曜の早朝、七十がらみの老人が電車で出かけることはそう多くはない。
「どちらへ行くんですか、こんな日に」
「犬の散歩に見えるかっつうの。おう、もっとも俺、犬は飼ってねえけどな」
またがらがら笑った。
「昔は猫飼ってたんだけどよ。七年前にうちのババアが死んでな、その一週間後に逝っちゃったのよ、サチコもよ」
サチコというのが老人が飼っていた猫の名前のようだ。
「今から電車に乗ってよ、駅十個くらい行ったとこの、駅前から出てる弁当工場の送迎バスまで行かなきゃなんねえ」
老人は龍一の目を見て続けた。
「知ってるか兄ちゃん。コンビニに並ぶ弁当、あれはよ、弁当工場で真夜中に作ってんだよ。夜勤の連中は夜中の十時におばさんやら若いねえちゃんやら中国人とかが出勤して来てな、ごっそり夜通しで弁当作るんだわ黙々と。朝までに店に並べるためによ。そのパートのおばさんたちは朝五時までやってさ、それから家に帰ってよ、今度は子どもの中学校に持って行く弁当をまた作ってな。日中寝て夕方から別のパートに出かけてよ、十時になったらまた弁当工場だあね、おう。俺も昔はやってたけどこの歳だ。もう日勤にしてもらったけどな」
老人はその弁当工場への出勤途中だった。そんな老人が見知らぬ自分に声をかけてくれた。龍一は胸の奥がじわりと熱くなった。今の自分が恥ずかしくなった。
「うまく言えないんですけど、今の話、なんか、その。とにかくもう一回元気になりました。さっきよりはずっと。ありがとうございます」
「おう、なんか知らねえけどよ、人に感謝されるなんて何十年ぶりだろうよ」
老人は空を見上げて雨がやんだのを慎重に確認し、乱暴な言葉遣いに似合わず丁寧に黄色い傘をたたみ、駅へと向かうゆるやかな上り坂に歩を進めた。二十メートルほど行った時、思い出したように老人は振り返り、龍一に向かって大声で言った。
「よお、兄ちゃんよ。さっきそこの角を回った時によ、なんか猫の鳴き声が聞こえたような気がしたんだわ。このまんまじゃあ、気になってしゃあねえ。悪りぃけどさ、ちょっと見てやってくんねえか」
龍一も大声で叫んだ。
「わかりました」
「おう」
彼はそう言いおくと一瞬立ち止まり、大きく息を吸ったかと思えば派手にしわぶき、のどの奥に詰まった枯れ葉や小石を車道の排水溝に一気に叩きつけた。小柄なゴジラが地表に火を吐くみたいに。彼はやれやれと言いながら坂をゆっくり登っていった。

老人が雨の日曜に出勤することと同じくらいに、猫が十月の冷たい雨の日曜に屋外で鳴き声をあげることは、そう多くないことに違いない。
ゆっくり角をまわって路地へ入った龍一の耳に届いたのは、いかにもか細い「みやぁ」という声だった。民家の軒先に置かれた段ボールは直接の雨の打撃は凌いでいたものの、湿気をたっぷり吸い込み見た目よりもずいぶん重そうだった。慎重に段ボールのふたを開けようとすると、ちいさな頭でぐいぐいふたを押し上げようとする力を感じた。すっかり開けてみるとそこには手のひらに乗るくらいの大きさの命があった。ちいさな体躯に不釣り合いなほど大きなふたつの黒い瞳が龍一をきょとんと見上げていた。後ろ脚で立ち上がり前脚を段ボールの縁に乗せて、しばらくまわりをきょろきょろ見渡していた子猫は、また龍一をじっと見つめてもう一度鳴いた。
「みやぁ」
「やあ」
龍一は自分でも間抜けな返事をしたと思った。ひと昔前の漫画じゃあるまいし、今どき段ボール箱で子猫を捨てるなんて、なんてひどい人間がいるものかと憤った。
「寒くないか。よかったらウチに来るかい。狭いところだけどさ、ちょうど今日から枕がひとつ余っているんだ。おまえ運がいいな」
龍一にはこの子猫が雄か雌かも知る由もなかったが、さきほどの人のいい老人の話を思い出し迷わず言った。
「ウチ来なよ、なあ、サチコ」
「みやぁ」

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