2017年1月12日木曜日

小説「月に雨降る」32

翌日会社に出勤すると部長の鈴木孝雄が龍一と月地信介をデスクへ呼んで言った。
「今やってる鹿児島のプロジェクトだけどさ。高須磨社長から昨日の夜電話があってな、いきなりなんだけど今日どうしても上京して東京の店舗をリサーチしたいとのことなんだ」
「えっ今日ですか」
「今日?マジっすか」
苦笑しながら孝雄も返す。
「マジだよ。高須磨さんの性格、おまえたちも知ってるだろ。思い立ったらすぐに実行に移す。あの人らしいよな。二人の今日のスケジュールどうなってる」
龍一は終日三宿のレストランのプレゼンの準備だったし、信介はバルセロナに出店する日本企業の企画書を英文でタイプする仕事があった。しかし二人ともほぼ同時に応えた。
「大丈夫です」
「全然OKっす」
ニヤリとして孝雄。
「オッケー牧場。じゃあ16時に羽田集合」

夕方鹿児島から羽田へやってきた高須磨ら一行5人を迎えた孝雄たちは、そのまま都内のバルへ案内した。最近出来たばかりの店で、鹿児島の新鮮食材だけを使った料理に、レアな黒糖焼酎などを飲ませる「ごまかし」という妙な名前の小さな店だった。これは信介が以前から懇意にしていたこの店の若いオーナーに連絡をとって急遽予約したものだ。高須磨一行とビジネス抜きで酒を酌み交わし談笑する。ほどよく酒が回ってきたところで高須磨が改まって切り出した。
「うちは今は鹿児島で成功しちょるけど、ゆくゆくは東京に店を出すごっちゃと考えとるんじゃよ。東京のブランドが地方に店を展開するのと、地方の企業が東京に進出するのとでは雲泥の差があって、我々はそもそも腹をくくってやらんといかん。そこで今回はあの国際的に飲食チェーン展開しちょる永山さんの店にリサーチに行こうと思って東京に来たんじゃ。もちろんその時は孝雄さんとこのT&Dさんに設計をお願いしようと思おとる」
龍一に衝撃が走った。
「永山...」
希伊の育ての親、しかし人として非道な男がトップに君臨する巨大企業だった。二十代の若い頃自由が丘の要塞のような自宅を訪ねたことが脳裏に蘇る。この世界広いようで狭いのが業界では常識だった。龍一ももちろんこの業界に身を置く者として、あの永山が希伊の親であり国際企業の総帥であることは百も承知だった。そのことに龍一はずっと目をつぶってきた。しかしよりによってこんなタイミングで永山の名前に接する日が来るだろうことは思ってもみなかった。龍一は希伊の実家の自由が丘に行ったあのとき、家政婦のかな江から永山の携帯番号を教えられたのだったが、思い悩んだ末にとうとう電話出来なかった自分に引け目を感じ、以来永山の巷に溢れる飲食店に入ることを忌避してきたのだった。しかしこの仕事をしている以上はいつかは関わることになるだろうと思っていた。
高須磨の希望で一週間前にオープンしたばかりの、新宿西口高層ビル街にある居酒屋へ行くことになった。高名なデザイン事務所が手がけた店で、250坪ものスペースの中央に噴水を設(しつら)えてボックス席と個室ゾーンとに分かれており、時間はまだ早かったもののすでに7割がた客席は埋まっていた。建築雑誌にも載っている話題の店だった。その圧倒的な空間に龍一は一瞬たじろいでしまったが、くっそ、俺にもこれだけの建築予算を与えてくれたらもっといいデザインをやってやるぞと、内心悔しい思いがよぎった。潤沢な予算をかけても必ずしも良いデザインが出来るとは限らないことはよく知っているし、普通はそんなことを言う龍一ではなかったが、この時は背景に個人的な永山との確執があったため、柄にもなく取り乱してしまったのだった。

今進めている鹿児島でのプロジェクトの話から始まり、やっぱり東京の女性は奇麗だ、俺も若い学生の頃は世田谷に住んでいてめちゃくちゃに遊んだ、といういつもの高須磨節が披露されるまでさほど時間がかからなかった。しばらくしてほろ酔い気分でトイレに立ち上がった高須磨だったが、なかなか龍一たちの個室に戻らなかった。鹿児島の営業部長が「社長どげんしとるね。またトイレで寝とるとか」と言って席を立ち様子を見に行こうとドアを開けると同時に、もっそりと高須磨が顔を覗かせた。個室に戻ったのはひとりだけではなかった。二人目に部屋に入って来たのは髪を七三に分けた長身のスーツ姿の男で、押し出しの利くやり手のビジネスマンのような風貌だった。こいつの顔は雑誌でもテレビでも嫌というほど知っている。龍一にまた電撃が走った。高須磨が言う。
「いやあ、こげな偶然あっとじゃろか。こちらオーナーの永山社長さんだよ」
トイレでひょんなきっかけで声を掛けたら永山と分かり、隣の個室に招かれてしばらく談笑していたのだと言う。高須磨はストレートな性格なので上京の目的を正直に話し同業者とはいえ永山と意気投合したというのだった。当然の成り行きで孝雄たちもここで名刺交換することになった。龍一は驚いたがすぐに冷静になって腹をくくった。
「初めましてT&Dの設計部、神島と言います」
龍一の名刺を手に取り怪訝な表情で見ていた永山が、ふと遠くを見る目をしてのち、みるみると表情がかき曇った。
「神島龍一...まさか、君はあの時の希伊の」
それだけで氷解した。龍一はあのとき妻の奈津子に名刺を置いて去ったのだった。おそらく彼女は永山が帰宅してその名刺を見せ、龍一の来意や一部始終を話して聞かせたのだろう。名刺を見ただけで15年前の記憶が蘇生するとはさすがだ。彼の目の色は驚愕から怖れ、更に猜疑的になり、最後は険しい暗い色に変わった。龍一は瞬きもせずに目に力を込めて永山を見続けた。それだけでお互いを理解するのに十分だった。永山にすれば希伊のことが世間に知れたら一大スキャンダルになるはずだ。しかしそこは弁護士団を擁する巨大企業、用意周到に隠蔽工作も万全なのだろう。どちらにしろ龍一にはそのことを糾弾し世間に公表することなど毛ほども考えていない。希伊がマスコミに追われ、白日の下に引きずり出されるかもしれないことを思えば、そんなことは出来るはずもなかった。永山との目線のやり取りだけでこれ以上の言葉は不要だと互いに理解した。
「えっ、神島さん永山社長と知り合いだったんですか」
と驚いた信介が言い一同が一斉に龍一を見た。
「いやいや、怖れ多くもこんな有名人と俺が知り合いなわけないだろ。お会いしたのは今日初めてだし。ですね、永山さん」
龍一は二人にしか分からないであろう目線を永山に送り彼を見やった。
「ああ、よく似た名前の人が頭によぎったもので勘違いしました。失礼しました」
皆しばらく立ったままで業界の近況などの話をして永山は退室していった。ドアを閉める時龍一の目を射るような視線を送ったのをしっかりと受け止めた。

この日を境に龍一は、希伊を思う自分の心が再び大きく彼女に傾くのを知った。
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2017年1月9日月曜日

黒い瞳の無垢

いよいよ日曜日はフレンズの2017年「ひめ...」じゃなかった「こと...」じゃなかった「しごと...」でもない「練習始め」なんであった。しかし正確には練習が出来ずに「グランド開き」だけになったのであった。強いフレンズを再生するのには、すでに一歩出遅れた感は否めないのだった。

しかし何はともあれ新年のご挨拶。例年有馬神明神社に行くんである。

年の初めに集合写真も恒例だ。フレンズ父母たちに是非お試し願いたいのが我が子の「定点観測」
一年前の同じブログには一歳年下だった自分の子が掲載されているはず。それをダウンロード保存してふたつの集合写真を見比べてみるのは一興だと思うのだが、いかがだろうか。高学年の子は入部した当初の古いブログを見ればもっと落差が激しく楽しいに違いない。成長の具合が一発でワカルし楽しいはずだ。一枚目が一年前、二枚目が今年のもの。


このあとはフレンズ年初の恒例名物階段ダッシュ。急勾配の石段を学年別に上り下り。一往復しただけでゼイゼイしちゃう。筆者などは日頃の不摂生がたたり歩いて上っただけでも肺と心臓に時限爆弾を仕掛けられたようにバクバクどっくんなんである。
やはり煙草をやめるべきだろうか?...よしっ決めた!
「今日も元気だ煙草を吸おう」


予定外だったけれどこのあと西有馬小校庭へ行き、グランド開き。半紙、塩、酒はこの日の三種の神器と言える。

朝礼台に一人ひとり上がって今年の抱負を言う。代表の咄嗟のアイディアで敢行。人前で大声で意見を述べる経験をすることは良いことだと思う。



昼はこれまた恒例の「お雑煮大会」
場所は昨年同様、下有馬の神社にて。これをもし有馬子ども会野球部、愛称アリコ関係者が読んでいたら理解しあえると思うのだけれど、またまた神社の使用予定がバッティングしちゃったんであった。同じ日のほぼ同じ時間帯に。これはどちらも潔白なんである。双方とも悪くないわけで。オトナ新年会の予定だったアリコさんに時間を譲っていただいた。オトナの対応、かたじけなく候。
予定を大幅に遅れてやっとパンカ〜イなんである。


Anjuの妹数世代先のQ姫候補、Junaをアップで撮るとそのまんまるな純真な黒い瞳に、筆者のドス黒いオトナの汚れた心が洗われるような気分になる。アリストテレス的カタルシス。まるで天から降ってきた黒曜石かアフリカのエボナイトか黒真珠のような無垢なくりんくりんの瞳だった。

ブッシュからスティック、いや薮から棒に「Tさ〜ん、撮って下さあ〜い」とのKakeno母からピンク色の声が。筆者とてやぶさかではないぞ。

宴もたけなわではあるけれど、グダグダのまま子どもたちは外へ出て行き、片付けが始まり散会となりそうだった。
一瞬憤慨した。
しかしYanagisawa代表と目と目があって、互いに同じことを考えていることにアイコンタクトで理解しあえた。「最後の締めがないですよね」「母たちにお礼言ってないですよね」と。代表も頷く。
「けじめ」「感謝の気持ち」...野球以前に大事なことである。年寄りの言うことは聞くものだ。但し年齢から言えば「是」とし、容認しなければいけないのは分かっているが、筆者は自分のことを年寄りだとは一切思ってないので悪しからず。
それでも代表からの締めの挨拶の場を設定することを失念したのは筆者の不徳の致すところ。代表は今年のフレンズに宣言したいことがあることを承知していただけに無念。子どもたちを会場に呼び戻すことに腐心したあまり、うっかりしてしまった。例年やっていることだから若いと言えども監督コーチや大人たちも分かっているだろうと過信した私のミステイクだった。(或いは腹の中では予定していたのかもしれないが)
最後に母たち準備をしてもらった方々に子らからお礼を述べて挨拶。
母たち、いつも大変な準備をやってもらってありがとう。
ごちそうさまでした。

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2017年1月8日日曜日

2017Queens始動

土曜日はおそらく全国どこの民間スポーツ団体でも、おしなべて○○始め、あるいはグランド開きなどをやったのではあるまいか。フレンズは日曜なんであるけれど、Queensでは第一公園にてそれが開催されたんである。
因に7日土曜=Q練習初め、8日日曜=Fグランド開きでもって翌週土曜=Q新年会(鮨パーティー)日曜=F2017壮行会、更に翌々週土曜=Q卒部式、月末の28日土曜は宮前区少年野球連盟総会、新年会なんであった。

恒例親子野球の開催。写真は皆をくまなく撮ったつもりだが、全員を掲載するとあまりの容量オーバーでサーバーがクラッシュし、ややもすると全世界が停電しかねないので、断腸の思いでざっくりチョイスの34枚なんである。


母たちの中で左バッターが意外に多かったのにはちょっと驚き。どんどん行っちゃう。


「脚ながっ!顔ちっちゃ!」のモデルのようになったQ姫OBのSunaも参戦。さぞかし学校ではモテるのだろうな。きっとKitamatsuオヤジは気が気ではないに違いない。筆者もついこの間のように記憶するが、中学高校の娘を持つ男親というものは、その時期は何かと心配しちゃうんである。男親は息子には厳しく、娘には甘いというのが常。悪い虫がつかないようにと願うしかないんである。因に筆者の息子は有馬中学の同窓生と結婚し、娘は川崎北高2年の時に一個上の先輩とつき合って結婚している。

さてこれもQ姫OBのIchikaの弟くん、いつの間にか打席に立たされてバットを持つことに。「ちっちゃ!」キャッチャーのAyanoがひざまずいてもまだ「ちっちゃ!」

コレだけを見たらおっすげえ打った!と思えるが、実は球がホームに届く前、まだこの位置でフルスィング、あっぱれな空振りであった。

お次は父やコーチたちも打席に。どこのチームでもそうだがやはり遊びと言えど本気モードで打っちゃうのがオヤジなんである。


Kitamatsuオヤジはこれぞバッティングのお手本と言えるようなスィング。

続いて今年も6年親として背番号を背負う長島茂雄コーチ。

おっと違ったKurashigeオヤジ。(^-^)

筆者も打つことに。もう全く自信がない。10年ほど前は有馬ドームのプールにホームランを打ったこともあったけれど、今はボールに目が追いつかないんである。投手板と本塁の真ん中あたりからボールがふいに消えていなくなり、気がつくとキャッチャーミットに納まっている始末。ましてやここ数年あまりグランドでも体を動かさなくなっているわけで。と、言い訳しておこう。空振りツーストライク後、Honamiの落差のある超高速スライダーに翻弄されて身を乗り出し大空振りであった。なんて、ただのボール球をムキになって合わせようとして失態を演じてしまったんである。ああ、恥ずかしい。宝くじが当たったらバッティングセンターを買い取って、BMWのRV車をキャッシュで購入し毎日通いたいくらいだった。Kurashigeさん撮影、Kitamatsuさん経由でLINEで送られて来た写真。何やってんだろこのオッサン。「恋ダンス」の練習をしているのではない。

監督Koshimizuさんや今季から背番号を背負うSatohオヤジ。

Queens名物「とん汁」の準備をして戻ってきた今季母会長のKurashige母。バーズでもノッカーを務めるほどのソフト経験者であるYoshikawa母。ライナー性の素晴らしいヒットをかっ飛ばす。

最後はMurata代表やSohma会長も参戦。会長の手にしているバットが爪楊枝のように見えた。

お昼からはとん汁大会。どこのチームでも母たちはこういう時頑張っちゃうのだ。頭が下がる。とてもうまかった。ありがとう、ごちそうさま。


上のオトナ3人の笑顔も良いが次のこれが本日のベストショット。
冬の木漏れ日を浴びながら、白い湯気の立つ豚汁をうまそうに食べるちいさい姫たちの一葉。

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