2017年1月18日水曜日

球遊学恋

日曜日はフレンズ父母会(総会)があって、夜は新年会を兼ねたような「2017壮行会」なんであった。会場はいつものファミレス夢庵。子どもも含めた集まりとなると有馬にはここがあるので助かっちゃうんである。筆者がフレンズに入った時分にはまだ夢庵ではなく、藍屋であった。ほぼ毎週のように練習終わりに監督コーチ大人数人が集まり、酒を飲んだものである。

さて一眼レフを過信していた。写真をフラッシュなしでもイケルと思い、ぱしぱし撮ったのだったが、あにはからんや、全体的に光量不足の暗いボケ写真になっちまった。なので相当割愛して掲載なんである。
まずは乾杯!

子どもたちはしゃぶしゃぶ食べ放題メニュー。まあ、食うわ食うわ、胃袋の大きさが頭の5倍くらいあるんではと思うほど。子どもがメシをお替わりする姿ほど頼もしいことはない。家庭では食費が大変だろうけれど。

それぞれのテーブルでは大人も子どもも盛り上がっていた。

こちら母テーブル。「はいはいはい、自分が一番美人だと思う人〜」と言ってレンズを向けると全員が「は〜い!」とピースサインなんである。有馬美女軍団。

「アタシさあ、チャーハンをおかずに白飯食える人」と言ってはばからないほどご飯大好き娘のNatsuki。ダンナAyumuは炭水化物ダイエットしとるっちゅうに。茶碗片手に子らのしゃぶしゃぶを横取りしじゃぶじゃぶしてパクパク、大森いや、大盛り飯を食べていた。Yasuda母も追随。日本の米農家への経済効果は絶大だ。素敵なことである。

こちらはフレンズ長老組。頭の薄さからいけば筆者が上座を独占するに違いない。最近まためっきり減ってきたんである。バーコード状態を維持するのも困難になってきたんである。

小さい子たちから数枚と6年生から数人だけ写真掲載。全員撮ってもここに載せるのは困難なんである。冗長で長〜いブログになっちゃうからだ。昔「髪は長〜い友だち」というCMがあったが、あれはカロヤンハイだったかな?



最後は主将Shohmaと今はまだ幼稚園生の女子二人。すでに背番号ももらっているんである。将来Queensに入ってくれたらもっと嬉しいぞ。

父母も挨拶。ただし父たちは割愛、母も無作為抽出で数人のみとしたい。


中学OBもついでにメシを食いにきた。在校生へのエールを送る。それよりおまえら勉強しとるんか?野球中学生が野球以外にやるべきことは3つある。
勉強、遊び、そして恋なんである。
筆者は中学サッカー小僧だったが、サッカー以外にやるべきことは野球と一緒だ。
球、遊、学、恋。
やっぱり一番熱心だったのは「球」サッカーだったけれど。

フレンズの生き字引、歩くピッチングマシーン、ステルス級のピンポイントノッカー、Yanagisawa代表から挨拶。
手締めでおしまい。

集合写真はテーブルをずらして。Gakuのお姉ちゃんがここでバイトしているので撮ってもらった。とんでもなく可愛い娘(コ)である。彼女がAKBに入ったら間違いなくセンターを獲るに違いない。今年のGakuはセンター?内野なはず?だ。
みんな、今年一年頑張ってくれよ〜。

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小説「月に雨降る」33

翌朝会社のデスクの電話が鳴った。
「はい、T&Dです」
「もしもし、私、トラスト探偵事務所の黒坂と申します。そちらに神島さんという方はおられるでしょうか」
電話をとった恭子は驚いた。探偵事務所っていったい何?リュウさんに何の用だろう。心がざわめきながら龍一に電話を取り次いだ。
「神島さん、黒坂さんという方からお電話です」
「ん、誰?」
眉間に皺を寄せてiMacのVectorWorksと格闘していた龍一が言った。
「探偵事務所の方だそうですけど」
探偵事務所?黒坂?怪訝な表情で受話器を持ち上げた。
「はい、神島ですが」
「初めまして、トラスト探偵事務所の黒坂と申します。神島龍一さんでいらっしゃいますね」
「ええ、はい、そうですが」
「単刀直入に申し上げます。永山希伊さんのことをご存知ですよね」
龍一は一瞬相手が言っていることが理解出来なかった。
きい?希伊?
誰だこいつは。動悸が早まるのを感じた。
「もしよろしければ、一度お会いして彼女のことでお話ししたいと思ってお電話差し上げました」
龍一の返事は心の動揺とは裏腹に勝手に口をついて出た。
「はい。もちろん」

仕事を早々に切り上げて、約束の恵比寿駅前の喫茶店に入った。黒坂はすでにコーヒーをすすりながら待っていた。黒いロングコートと赤いスェットシャツにストーンウォッシュジーンズ、真っ赤なスニーカーを履き、薄いグレーのサングラスを掛けた初老の男だった。短く刈り込んだ頭には白いものがだいぶ混じっていた。年の頃はすでに50代半ばだろうか。街で見かけた他人ならば一瞥して胡散臭い男と決めつけているはずだ。だが電話での丁寧で柔らかい物腰が印象に残っていたので、人を見かけだけで判断してはいけないことを自分に言い聞かせた。互いに名刺交換を済ませると、龍一は勢い込んで言った。
「希伊のことでお話があるそうで。いったいどういうことですか」
「私は永山希伊さんが高校生の時に調査を依頼された探偵で黒坂と申します」
瞬時に記憶が蘇る。あの日の晩、希伊が自分の生い立ちを初めて龍一に語った時、高校三年生の時分に探偵に依頼して出自を調査してもらったと言っていた。あのときの探偵がなぜ今頃俺に連絡をして来たのだろう。希伊の名前を出されて動悸が早まる。
「15、6年前に希伊からある話を聞いた時に、探偵さんに依頼したと言ってましたが、それが黒坂さんなんですね」
「そうです。神島さんはすでに希伊さんの生い立ちの話は知ってらっしゃるのですね」
「はい、おおよそのことは彼女から聞いて知ってます」
「では話は早い」
「でもどうして私のことを知っているんですか」
それには答えず煙草をもみ消して黒坂は話し始めた。
「希伊さんに調査報告をして実際的には私の仕事はそこで終わったわけですが、まだ高校生だった彼女の放心したような顔を見ると、どうにもいたたまれなくなりましてね。機会があれば仕事抜きでも協力してあげたいと思ったんです。でも日々の忙しさにかまけて、その思いはすっかり引き出しの奥にしまい込んだままでした」
龍一は質問をはさまず黙って聞くことにした。
「それから何年経った頃でしょうか。たぶん7、8年は過ぎていたと思いますが」
すぐに逆算してみる。その頃なら希伊が龍一のもとを去ってまだ間もないはずだ。龍一が煙草に火をつけると、黒沢もショートホープとジッポーを取り出した。
「仕事の関係で富山へ出張があったんです。二泊したあと明日帰京するという時になってふと思い出した。希伊さんの生まれが隣の石川県の金沢だったことをね。幸い翌日は休みだったので、帰る前に金沢へ寄ってみようと思ったんです。いや、でも、これといった当てはなかったんですが」

龍一は黒坂の話がこのあとどう展開していくのか全く分からぬまま、ひとことも聞き逃すまいと目の前の男の顔をまっすぐ見つめた。
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2017年1月17日火曜日

Queensオトナの新年会2017

土曜日はQueens恒例「2017オトナの新年会」なんであった。毎年ここに書いているけれど、ただの新年会とは大きくちゃうんである。鮨の隠れた超名店「鮨長」のOhsawaさんが出張にぎりを演じてくれるのであった。(因にOhsawaさんは「大沢親分」の実の息子さん)ここの鮨を食べたら今まで食べてきた廻る系の「寿司店」は、あれはいったい何だったのだろうと疑問に思ってしまうくらい旨い。因に魚へんに旨いと書いて「鮨」である。ただし、廻らない系の「鮨屋」は会計の時に伝票をみたとたんに目が回ってしまうので注意が必要だ。

中トロ、大トロを口に頬張れば天にも昇る心地、イカのにぎりなんぞ歯が全部抜けて歯ぐきだけになっても容易に噛み切れるほどヤワヤワで、しかもねっとり濃厚な味わい。

更にもうひとつのお楽しみはQ美人妻たちのお手製の料理なんであった。各家庭から持ち寄ったものでこれもQの伝統となった。
母会会長Kurashige母始め、Qのお母さんたちに感謝。どいつもこいつもうまかった、ごちそうさま、なんである。m(_ _)m



さて各テーブルを巡回す。修学旅行で就寝後の生徒の部屋を先生が巡回するがごとく。
これが宮前が世界に誇る美女軍団。会長の鼻の下がいつもより3cmほど伸びてご満悦であった。Murata代表の、母たちのカオスの中心に自然とすんなり溶け込む姿はお見事である。美女を前にすると何をしゃべって良いかわからず、しどろもどろになっちゃう筆者にしてみれば、Murata代表の爪の垢を煎じて飲みたいくらいだ。(本当に飲めと言われたら絶対ヤだけれど)
筆者がブログで掲載したQ姫の写真を使って年賀状を作ってます、とSashiki母に言われて「本望です」バンバン使って下さいと返す。嬉しい限りである。

オヤジたちのテーブルを活写。子どもの受験の関係で京都赴任から一時帰国していたTanakaのマーくんも参加。Kitamatsuオヤジ、OBコーチのDaiちゃんRyohちゃんなどにイジラれればイジラれるほど、味わい深いキャラを発揮するんである。まるで新幹線の車中で買い求めたホタテの貝柱のように、噛めば噛むほど。

2016年新人戦優勝チームヤングKurosu監督。今年はKurosu節が久々にブイブイ聞かされるかもしれない。筆者はフォルコンズ新監督Tanakaオヤジと野球談義。

箸休め。ロビーでは喫煙可能。子どもたちがいるときはここも禁煙になるけれど、今日はオトナの新年会だ。絶妙なレイアウトでベンチに並んだ煙草とライター。どうしたものか思わずシャッターを切ってみる。こういう絵柄を見ると本能的に勝手にレンズを向けてしまうんであった。

マーくんイジリ炸裂なんである。JA三人衆の一人、マコト酒店「花フラ夜の部室」主宰のSaitohさんの息子Tsuyoshiくんも参加。沖縄のバンド、ブームのボーカルにちょっと似ているか。左の男二人の笑顔はまさに「破顔一笑」の四字熟語の典型であった。実にいい笑い顔。マーくんイジリの師匠Kitamatsuオヤジのひと言に爆笑したんであった。イジリー岡田ならぬイジリーKitamatsuの面目躍如。
「ふざけんなよ、おまえ、ちょっとこっち来い!」のTanaka節の名ゼリフ、久々に聞いた。
Ryohちゃんの機転で一瞬にして「ねずみ男」に変身するTanakaオヤジ。


再びみたび、煙草休憩。
(※ここからの一文は良い子の少年少女は読み飛ばすようにして下さい)
ここでは今季フォルコンズ監督就任となったTanaka父とその妻監督夫人のSatokoちゃん。シャイなTanaka父と正反対にSatokoちゃんはめっちゃオープンなんである。次第に下ネタが炸裂し大爆笑の渦。写真のメンバーで(爆)なんであった。
みなさん、次の会話を想像して下さい。これは野球になぞらえたあっち系の会話であることを。誰がどのセリフを言ったかはつまびらかには出来ない。(イジリーKitamatsuとの合作で多少の挿入演出はあるが、ほとんどは実際の会話の骨子に沿っている)
「もうさあ、本番前のシートノックはしっかりやらないと」(爆)
「だよね、ちゃんとグランドにも水を撒いて濡らしてからでないと」(爆)
「シートノックのバットはやっぱビヨンドでしょ」(爆)
「そうそう瞬間的にビヨーンと伸びちゃうからねえ」(股間からバットを取り出すジェスチャー有り)(爆)
「お腹みてまた妊娠しちゃった?って言われたよね」(爆)
「そうなの、うちのパパ欲しがりなんだもの」(爆)
「シートノックの最中にホームラン打ったりしちゃたりして?」(爆)
「そりゃあ、監督交代だわな」(爆)
「じゃあ俺、監督代行に立候補しちゃおうかな」(爆)
「どーぞどーぞ」(爆)
「おいおい、そりゃないだろ」(爆)
「シートノックでホームラン打ったら、本番の試合までに1時間くらい待たないと戦えないぜ」(爆)
「言える言える」(爆)
(※少年野球ブログにあるまじき記述であることは重々承知の上、これを読んで眉をひそめる品行方正なお方がおられれば申し訳なし。しかしこういうところも「晴耕雨読」の真骨頂なのでお許し願いたい。オトナならば鷹揚(おうよう)に笑ってご笑納いただけると信じてやまない)

話の途中で全く事情を知らないマー君がやってきた。
「シートノックでホームランを打った」の件(くだり)でくそ真面目にマー君憤慨。
「えっ!シートノックでホームランを打ったらダメだろ。誰だその監督は〜、こっち来い」
違う意味でマー君以外がまた(爆笑)なんであった。マー君はきょとんとしていた。

Satokoちゃん。実に愛すべき可愛らしい女性である。

やっとQueensブログが更新出来た。「ほっ」
最後はシャンシャンシャンで締め。

おっといけねえ、最後にこれも恒例鷺沼駅前の夜の俯瞰写真。
鷺沼駅前大規模再開発が議会で正式決定。数年長期に渡り、駅前大規模開発なんである。想像以上に様相が一変するんである。そのへんのブログはいつかまた、書くわけで。

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2017年1月12日木曜日

小説「月に雨降る」32

翌日会社に出勤すると部長の鈴木孝雄が龍一と月地信介をデスクへ呼んで言った。
「今やってる鹿児島のプロジェクトだけどさ。高須磨社長から昨日の夜電話があってな、いきなりなんだけど今日どうしても上京して東京の店舗をリサーチしたいとのことなんだ」
「えっ今日ですか」
「今日?マジっすか」
苦笑しながら孝雄も返す。
「マジだよ。高須磨さんの性格、おまえたちも知ってるだろ。思い立ったらすぐに実行に移す。あの人らしいよな。二人の今日のスケジュールどうなってる」
龍一は終日三宿のレストランのプレゼンの準備だったし、信介はバルセロナに出店する日本企業の企画書を英文でタイプする仕事があった。しかし二人ともほぼ同時に応えた。
「大丈夫です」
「全然OKっす」
ニヤリとして孝雄。
「オッケー牧場。じゃあ16時に羽田集合」

夕方鹿児島から羽田へやってきた高須磨ら一行5人を迎えた孝雄たちは、そのまま都内のバルへ案内した。最近出来たばかりの店で、鹿児島の新鮮食材だけを使った料理に、レアな黒糖焼酎などを飲ませる「ごまかし」という妙な名前の小さな店だった。これは信介が以前から懇意にしていたこの店の若いオーナーに連絡をとって急遽予約したものだ。高須磨一行とビジネス抜きで酒を酌み交わし談笑する。ほどよく酒が回ってきたところで高須磨が改まって切り出した。
「うちは今は鹿児島で成功しちょるけど、ゆくゆくは東京に店を出すごっちゃと考えとるんじゃよ。東京のブランドが地方に店を展開するのと、地方の企業が東京に進出するのとでは雲泥の差があって、我々はそもそも腹をくくってやらんといかん。そこで今回はあの国際的に飲食チェーン展開しちょる永山さんの店にリサーチに行こうと思って東京に来たんじゃ。もちろんその時は孝雄さんとこのT&Dさんに設計をお願いしようと思おとる」
龍一に衝撃が走った。
「永山...」
希伊の育ての親、しかし人として非道な男がトップに君臨する巨大企業だった。二十代の若い頃自由が丘の要塞のような自宅を訪ねたことが脳裏に蘇る。この世界広いようで狭いのが業界では常識だった。龍一ももちろんこの業界に身を置く者として、あの永山が希伊の親であり国際企業の総帥であることは百も承知だった。そのことに龍一はずっと目をつぶってきた。しかしよりによってこんなタイミングで永山の名前に接する日が来るだろうことは思ってもみなかった。龍一は希伊の実家の自由が丘に行ったあのとき、家政婦のかな江から永山の携帯番号を教えられたのだったが、思い悩んだ末にとうとう電話出来なかった自分に引け目を感じ、以来永山の巷に溢れる飲食店に入ることを忌避してきたのだった。しかしこの仕事をしている以上はいつかは関わることになるだろうと思っていた。
高須磨の希望で一週間前にオープンしたばかりの、新宿西口高層ビル街にある居酒屋へ行くことになった。高名なデザイン事務所が手がけた店で、250坪ものスペースの中央に噴水を設(しつら)えてボックス席と個室ゾーンとに分かれており、時間はまだ早かったもののすでに7割がた客席は埋まっていた。建築雑誌にも載っている話題の店だった。その圧倒的な空間に龍一は一瞬たじろいでしまったが、くっそ、俺にもこれだけの建築予算を与えてくれたらもっといいデザインをやってやるぞと、内心悔しい思いがよぎった。潤沢な予算をかけても必ずしも良いデザインが出来るとは限らないことはよく知っているし、普通はそんなことを言う龍一ではなかったが、この時は背景に個人的な永山との確執があったため、柄にもなく取り乱してしまったのだった。

今進めている鹿児島でのプロジェクトの話から始まり、やっぱり東京の女性は奇麗だ、俺も若い学生の頃は世田谷に住んでいてめちゃくちゃに遊んだ、といういつもの高須磨節が披露されるまでさほど時間がかからなかった。しばらくしてほろ酔い気分でトイレに立ち上がった高須磨だったが、なかなか龍一たちの個室に戻らなかった。鹿児島の営業部長が「社長どげんしとるね。またトイレで寝とるとか」と言って席を立ち様子を見に行こうとドアを開けると同時に、もっそりと高須磨が顔を覗かせた。個室に戻ったのはひとりだけではなかった。二人目に部屋に入って来たのは髪を七三に分けた長身のスーツ姿の男で、押し出しの利くやり手のビジネスマンのような風貌だった。こいつの顔は雑誌でもテレビでも嫌というほど知っている。龍一にまた電撃が走った。高須磨が言う。
「いやあ、こげな偶然あっとじゃろか。こちらオーナーの永山社長さんだよ」
トイレでひょんなきっかけで声を掛けたら永山と分かり、隣の個室に招かれてしばらく談笑していたのだと言う。高須磨はストレートな性格なので上京の目的を正直に話し同業者とはいえ永山と意気投合したというのだった。当然の成り行きで孝雄たちもここで名刺交換することになった。龍一は驚いたがすぐに冷静になって腹をくくった。
「初めましてT&Dの設計部、神島と言います」
龍一の名刺を手に取り怪訝な表情で見ていた永山が、ふと遠くを見る目をしてのち、みるみると表情がかき曇った。
「神島龍一...まさか、君はあの時の希伊の」
それだけで氷解した。龍一はあのとき妻の奈津子に名刺を置いて去ったのだった。おそらく彼女は永山が帰宅してその名刺を見せ、龍一の来意や一部始終を話して聞かせたのだろう。名刺を見ただけで15年前の記憶が蘇生するとはさすがだ。彼の目の色は驚愕から怖れ、更に猜疑的になり、最後は険しい暗い色に変わった。龍一は瞬きもせずに目に力を込めて永山を見続けた。それだけでお互いを理解するのに十分だった。永山にすれば希伊のことが世間に知れたら一大スキャンダルになるはずだ。しかしそこは弁護士団を擁する巨大企業、用意周到に隠蔽工作も万全なのだろう。どちらにしろ龍一にはそのことを糾弾し世間に公表することなど毛ほども考えていない。希伊がマスコミに追われ、白日の下に引きずり出されるかもしれないことを思えば、そんなことは出来るはずもなかった。永山との目線のやり取りだけでこれ以上の言葉は不要だと互いに理解した。
「えっ、神島さん永山社長と知り合いだったんですか」
と驚いた信介が言い一同が一斉に龍一を見た。
「いやいや、怖れ多くもこんな有名人と俺が知り合いなわけないだろ。お会いしたのは今日初めてだし。ですね、永山さん」
龍一は二人にしか分からないであろう目線を永山に送り彼を見やった。
「ああ、よく似た名前の人が頭によぎったもので勘違いしました。失礼しました」
皆しばらく立ったままで業界の近況などの話をして永山は退室していった。ドアを閉める時龍一の目を射るような視線を送ったのをしっかりと受け止めた。

この日を境に龍一は、希伊を思う自分の心が再び大きく彼女に傾くのを知った。
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