2017年2月22日水曜日

小説「月に雨降る」38

翌日の日曜日は娘の野球で車出しをして同じ区内の小学校へ遠征に出かけた。大事な試合だった。今日の試合に勝てば予選ブロックリーグを抜けて決勝トーナメントへ進めるはずだった。結果は五対四の惜敗。子らの何人かは泣いていたし、親たちも沈痛な面持ちだった。高知で野球をやっていたあの頃を思い出す。甲子園出場のかかった県大会準決勝の一戦。公立高校でベスト4まで登りつめたことは快挙だったし、親や学校関係者など周囲の期待も膨らむ一方だった。決勝まであと一勝は目前だった。九回裏2点リードしていたのだが、サードを守っていた龍一の凡ミスが引き金となってチームに四球やエラーが連鎖した。気がつくと相手チームのサヨナラの走者が本塁を踏む姿が恐ろしく遠くに見えた。やがて大粒の涙が球場の土を濡らしていった。サードベースが滲んでいた。巨大なすり鉢の中の、歓声とどよめきが龍一の嗚咽を飲み込んだ。
「俺のせいで負けた」
大人になってから時々あの試合を想い起こすたびに、分量を間違えたインスタントコーヒーのような苦い味がするのだった。しかし同時に何かかけがえのない経験をしたようにも思うのだった。勝って学習することよりも負けて学ぶことのほうが含蓄があるように感じたものだった。おかげで少々のことではへこたれず、精神的に強くなったように思った。社会人になって何度か挫折を味わい心が折れそうになってもどうにかここまで来れた。そのたびに打たれ強くなったが、しかし大人になることと引き換えに、少年のころの純真が失われてしまったのも現実のこととして甘受せざるを得なかった。チームの子どもたちを見ていると、あの頃の自分を想い起こし時々そう思う龍一だった。

その晩は監督コーチ、親父たち男だけで残念会という名のいつもの飲み会になった。最初の一時間は熱く野球を語っていた男たちは、酔いが回るにつれて仕事の話や世間話に移り、果ては母たちには聞かせられないような男ならではの軽い猥談にまで発展し、勢いでカラオケスナックまで繰り出した。みな明日は仕事だというのに夜更かしして飲んでしまう、そんなチームの男たちが龍一は大好きだった。店の女の子と大音量でデュエットしている親父を尻目に、そろそろ帰ろうと思った龍一だったが、チーム一の無口で無骨な父が隣に座り訊いてきた。大乗寺義満というおそろしく重厚長大な画数の多い名前だったが、チームの皆からはよっちゃんと親しみを込めて呼ばれていた。彼とは三個しか年齢が違わなかったが、龍一には敬語で接してくる男だった。息子や娘がまだ小さかったころ、龍一が仕事で遅くなった時は何度も子どもたちが彼の家庭で世話になっていた。美人の奥さんには今でも頭が上がらない。
「ところで神島さん、再婚しないんすか」
「なんだよ、よっちゃん、いきなり薮から棒に。ブッシュからスティックだぜ」龍一は笑った。
「もったいないじゃないですか。神島さん四十過ぎでしょ、まだ全然イケてますよ」
彼が経営する土建会社の経理部に三十二歳のバツイチ女性がいて、その彼女が絶対おすすめなのだそうだった。とても美人だし気だての良い女性で俺が保証しますと言ってきた。龍一はこの男のことを100%信頼していたので、彼がそこまで言うからには確かにそうなのだろうと思った。その気遣いが嬉しかった。
「ありがとう、よっちゃん。でも俺さ、今ね、同点の九回裏二死満塁で俺に打席が回ってきたんだよ。思い切ってバットを振りに行くつもりなんだ。クリーンヒットでサヨナラになるかボール球を強振して三振するかはわからない。悔いは残したくないからとにかく振りに行く。見逃し三振だけはしたくないんだ」
義満はきょとんと目を丸くして龍一を見た。
龍一独特の難しいジョークを言っていると思ったのか最初は笑っていたが、直感力の鋭い彼はやがて口をつぐみ、そして言った。
「わかりました。いや、てゆうか正直、言ってる意味よくわかりませんけど、俺に出来ることがあれば遠慮なく言って下さい」
龍一はまた「ありがとう」と言いかけたが途中から言葉にならず、無言で義満にハグした。丸くなった彼の目は今度は目を白黒させることになった。
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2017年2月18日土曜日

少年野球の啓蟄

このところちょいと忙しい。茅ヶ崎と熱海の物件を同時並行路線で仕事、更に来週末からは新浦安の物件が入ってくるわけで。昨日はとうとう代々木の仕事を断らざるを得なかった。ヒマな時はヒマなのに忙しい時に限って更に忙しくなるのがこの業界の常と知りつつも、いやんなっちゃうんであった。忙しいのが嫌なのではない。仕事を断ってしまわねばならない状況が哀しいのであった。忙しいことは大好物なのに。遠い将来受給されるであろう国民年金の見返りが小さい個人事業者にとっては特に。

というわけで今日土曜日はギリまで仕事をして、今年最初の練習試合、昨年新人戦の優勝チーム名門ヤングホークス戦に馳せ参じた。前半だけ観てまた仕事に戻ったけれど。
いよいよ球春なんである。各チーム今日を皮切りに本格始動なんであった。
宮前(川崎)少年野球は今日が対外試合の解禁日。それはまるで「啓蟄」(けいちつ)のようだ。(※啓蟄の意味は小学生は知らなくても良い。しかし中学生なら辞書を調べるべし)
ヤングKurosu監督、Ishikuraコーチ、Kurashigeさんらとご挨拶。監督とはなんだか毎週のように酒を飲んでいる錯覚に陥る。

今季ヤング主将とフレンズ主将。カメラは持参しなかったのでiPhoneで。ところでこのブログ、「Mac」や「iPhone」を「マック」や「アイフォン」と書かないのは、「Mac」や「iPhone」を「マック」や「アイフォン」と表記しちゃうと、「Mac」や「iPhone」が「Mac」や「iPhone」ではなくなってしまうからなんである。ワカリマスカ?「マック」や「アイフォン」と書くと、まるでハンバーガーや安っぽいガラケーみたいになっちゃうからなんである。ワカリマスネ?

ヤングAにはQueensのAyakaとYurikoがいる。その二人の勇姿を活写。iPheoneのズームなので画像は多少粗いが、本人たちは実に可愛い娘たちなんである。二人ともスレンダー美女である。今年のQでの活躍にも期待したい。


試合中、センターへの凡フライが捕れなかったフレンズ。ベンチで筆者、
「あんなフライ、小学生でも捕れるぞい、まったく」
と言ったら、すかさず隣のスコアラーのOhmoriオヤジが返してくれた。
「いやいや、小学生だし」...(笑)
安心した。ボケに対して誰もツッコミを入れてくれなかったらどうしようと不安だったのだったが、スベらなくて良かったわけで。

またこんなシーンも。
塁に走者を置き、打者はKazuki。捕手がパスボール(または投手のWPだったかな)した瞬間、ベンチから走者へ向かって「走れ!」の指示。そしたら打席のKazukiがバットを放り投げて一塁へおずおずと走り出す。会場爆笑。俺はそんな憎めないKazukiが大好きなんである。ハグしてチューしたいくらいだ。

さて。試合途中でAyaka母、Qの母会長Kurashigeさんがチャリでやってきた。筆者に紙袋を手渡す。
「Queens母たちの愛情のこもったバレンタインです」
なな、なんですと?バレンタインですと!ゴディバの義理チョコよりも嬉しいではないか。
ベンチへ戻りスコアラーOhmoriオヤジにたっぷり自慢してやった。Ohmoriオヤジの息子HiroとKurashige家のお兄ちゃんは有馬中で同じ野球部で同級生、めっちゃ仲良しらしい。
「ほれ、Queensの美人妻からバレンタインもらっちゃったぞ」
「チームから?それとも本命チョコ?」
「本命に決まってんじゃん」
.....。スミマセン、見栄を張ってしまうのはオトコの悪い性癖なんである。
Queens母たち、この場を借りてありがとうございます。感謝!

実はこのブログ、このチョコをツマミにウィスキーをグビリながら書いている。
何を隠そう、筆者チョコレート大好きなんである。決して甘党ではないが、最近は粒あんが入った餅の和菓子に凝っている。今の時季はセブンの「桜餅」が秀逸。スーパーライフの「よもぎ草餅」も捨てがたし。但し、義歯がカポリと取れてしまわないように慎重にカミカミしなきゃなんであるが。(因にフレンズ前監督Satohくんは粒あんが大の苦手でこし餡派であった。筆者はこし餡が苦手である)
写真左のサントリー山崎は昔Sohma会長から頂いたもの。超高級品である。
しかし中身はと言えば、Amazonで購入する4リッターペットボトルの安ウィスキーなんである。
見栄を張ってしまうのはオトコの悪い性癖なんであった。

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2017年2月15日水曜日

小説「月に雨降る」37

突然ずかずかと足音がしたかと思うと、のっそりとトイレに行く息子が見えた。すでに龍一の身長に肉薄するほど背が伸びた。用を足しトイレから出てくるともの凄い勢いで顔を洗いまた自分の部屋に駆け出して行く。
「おい、おまえ、今日の部活は」
「ん。だから今焦ってんじゃん。遅刻しそうだよ」
そう言うなり踵(きびす)を返してベランダに突進し、野球の白い練習着を取り込みそのままリビングで着替え始めた。
「あのなあ、もう少し計画的に起床出来ないもんかね。昨日何時に寝たんだよ。またスマホでネット見てたんだろ」
「親父に言われたくないよ。昨日酔っぱらって何時に帰ってきたのさ」
確かに。おまえの言うとおりだ。
「お父さんさ、最近なんか変じゃね」
それは俺が一番よく知ってるし。
「なんかさ、家に帰ってきてもじっと黙って空中の一点を見つめたりとか、深夜にトイレに起きてみたら、居間でウィスキーのグラスの中を覗き込んでぶつぶつ独りごと言ったりとかさ、なんか最近変だよ。なんかあったの」
驚いた。自分の知らぬ間に子どもは親を見る目が成長していたのだった。こんなに大人びた目線をいつのまに備えていたのだろうか。親が思っている以上にこの年頃の子どもは独自の世界を形成しつつあるのだと思い知った。そういえば自分の中学時代も一気に親離れをして野球と友だちと遊ぶことが世界の中心にあった。
「おまえ、よく見てるな。それはそうと部活から帰ったらちょっと話がある」
「はあ?進路のこと?面倒くせぇなあ」
そのあと息子は冷蔵庫から納豆を取り出しスチロールパックのままスプーンで搔き込むと、ローリングスのスポーツバッグを担いで家を飛び出した。その背中に龍一は声をかけた。
「おい、納豆食ったら歯磨いてから行けよ。女の子に嫌われるぞ」
「ん、女子なんて興味ねえし」
嘘つけ。このところ毎晩のように楽しげに女子と電話してるのを俺は知ってるぞ。
そんな時もサチコは玄関に行って、しっぽを自分の足に巻き付けて律儀に座って息子を見送った。サチコの世話は夜遅い龍一に替わり二人の子どもが面倒をみていたのだった。特に娘との仲は親密で、夜になるとサチコは掛け布団と敷き布団の僅かな隙間からするりと侵入してきて、娘の寝床へ潜り込み朝まで喉をぐるるぅぐるるぅと鳴らしながら過ごすのが常だった。

まだ小学生の娘に話すことは躊躇われたが中学生になった息子には今の自分のこと、希伊とのことを話しておこうと思った。その上で金沢へ行くことにしたのだった。その晩娘が自分の部屋に引っ込んでから、男同士でリビングで話し合った。自分の若い頃からの来し方、希伊との出会いと別れ、ほどなくして結婚しおまえたちが生まれ、そして離婚したことを。サチコを拾った顛末も漏らさず話した。気がつくと時計の針は午前零時を回っていた。長い話を聞き終えた息子がぼそりと言った。
「わかった」
息子は真顔になって続けた。

「俺、お父さんを応援するよ。金沢でもどこでも、世界の果てまでも行ってくればいいじゃん。話を聞いていて俺もその希伊さんという人に会ってみたいと思ったよ。だって俺の親父がそこまで惚れ込んだ女の人なんだもの」
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2017年2月12日日曜日

2017体験会2月

団体競技はヒトがいなくっちゃ始まらないんである。始まるどころか定員に達しないとスタートラインにさえ立てないわけで。そんでもって出来ることなら定員よりも多くのヒトが集まれば尚良しってわけだ。近年の野球離れが叫ばれて久しいけれど、それでも波があって今はどうなんだろうか。宮前の中では一部チームを除き、やはり子どもたちの減少傾向に拍車がかかっているチームが多いように見受けられるのであった。

でもって体験会なんである。少しでも多くの野球少年少女を獲得すべく各チーム腐心するのがこのイベントなんであった。フレンズでも今年も開催しちゃうわけで。毎度頑張ってくれたのはNakamura副事務局はじめMaedaオヤジ、他父母たちの努力で企画、実現された。
およそ11名ほどの子たちが来てくれた。現役選手が誘ってくれたり親たちが声掛けしたり、学校にチラシを配布して地道な努力が実ったのだった。
一昨年全国へ行ったときのノボリが寒風にはためく。実に懐かしい。
(※まだフレンズ部員ではないのに、勝手にブログに写真を掲載してすみませんなんです。異議申し立て、クレームなどございましたら速攻削除しまする)


みなで準備運動、ランニング、軽くダッシュ。


キャッチボール。野球の基本はキャッチボール。キャッチボールは野球の基本。さてどっちが正しいのか?そーなんである基本的にどっちも正しいんであった。まだ2,3年生なのに身長のある男子や、女子なのに足の速い子などなど、なかなか素敵な子が多かった。

ひとりずつティーバッティング。おしなべて皆本当にうまいという印象を持った。せっかくなので正面からの勇姿を激写。



ふたつに分かれて紅白試合的遊び半分的ミニゲーム。高学年はグランドの隅でノック、低学年たちがゲームに加わりのチーム編成。ティーでボールは柔らかいゴムボール。これが一番盛り上がった。勝ち負けがかかるし、ちょっとしたスリルと緊張もあり、思い切りプレー出来ることもあってか皆生き生きと躍動していた。

元気に駆け回り、打撃も下手すりゃ現役の選手よりもうまい女子がいた。あとで聞いた話によると、ご両親が大のカープファンで(それもハンパない筋金入りのファン)、昨年は大変だったらしい。それに影響されてその子も野球大好き少女だったんである。走攻守全部ではつらつとしていた。筆者も浩二・衣笠・慶彦・大野・北別府以来のカープファン歴約38年(但し筋金は入っていないけれど)、まこと嬉しい限りである。...って、まだ入部は決まってないけれど。

ゲームセット。出来れば最後は現役選手による模範演技ならぬシートノックを披露して、締めにしたかったけれど。監督Itoh、代表Yanagisawaさんから挨拶。
この中から一人でも多く入部してもらえたら実に嬉しいんである。
どんだけ嬉しいかと言うと、地面に向かって「ブラジルのみなさん元気ですかあ」と叫ぶに飽き足らず、シャベルで地面を掘っていき、ブラジルまで貫通したあと現地のリオのカーニバルに参加したいくらい嬉しいのである。


帰り際にフレンズ、チーム母からバレンタインデーの贈り物をもらったんである。お気遣い嬉しいではないか。もちろん筆者だけではなく他のコーチもである。更にとびきり若いモデル級の美女からもいただいた。たぶん筆者のバレンタインデープレゼント史上一番若い女性からである。さて誰か?フレンズ紅一点の小学三年生Anjuからだった。(もちろんこれも他のコーチももらっている)
実に嬉しいではないか。
どんだけ嬉しいかと言うと、天にも昇る気持ちでふわふわと浮き立ち、実際天国まで行って神様と名刺交換しちゃうくらい嬉しいのであった。

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