2013年2月16日土曜日

オルセー美術館

日テレの「アナザースカイ」という番組を観た。今日は辻仁成がゲスト。ミポリンと結婚しパリ在住の作家である。筆者、作家にハマると徹底的にその作家の本を読みあさるタイプ。一時期この人の小説にどっぷり浸かった時期があり、ほとんど読破したことがある。今は全くその気は失せたけれど。更に、パリには2度ほど行ったことがあり、今でも兄貴が住んでいるので、パリの風景が映し出されるだけで、見入ってしまうんである。そしてオルセー美術館の紹介映像もでてきた。美術館巡りも若いころの趣味であった。この三つのファクターが合体しちゃったもんだから、TVを観ながらすこんっと昔の感慨にふけってしまった。

子どもがいない結婚3年目に初めて海外へ行った。最初はロンドンへ行き、日本で知り合ったスコットランドに住むスコティッシュの夫婦に会うために。彼ら夫婦は日本語はカタコト、そのご両親は日本語が全くわからず、こちら夫婦も中学レベルのカタコトの英語とで四苦八苦の会話であったけれど、すごく楽しかった記憶がある。まるで映画に出てくるような、夕日が射すスコットランドの家で紅茶とクッキーで過ごしたひと時は今でも忘れられない。帰りのロンドンへのBAのチケットを買う時、空港でまたしても四苦八苦七転八倒の英語で会話をした。全て手続きが終わった時に、窓口の中年女性がにっこり微笑みながら「Your English is very good!」と言ってくれた。めちゃくちゃ嬉しかった。
翌日パリの兄貴を訊ねて、エアフランスの機中の人となったんである。

二度目にパリへ行ったのは兄貴の結婚式に参列するため。その頃は子どもが小学生低学年の二人のコブ付きで。兄貴はパリで知り合った日本人女性との結婚。今では筆者にとっては義姉になる。短い滞在の間に行ったのはオルセー美術館であった。駅を改装した建築的にも世界的に有名な美術館なんである。モナリザのルーブルは既に行ったので2度目の渡仏ではオルセーが念願だった。

微かにざわめいた空気感があるものの、巨大な空間に展示された数々の名画を静かに堪能する。最初神妙な面持ちでくっついていた子らは、そのうち子どもの御多分にもれず、飽きてきた。いつの間にか二人つるんでどこかへ行ってしまう。「美術を愛するパリジャンに人さらいはいないだろうて」などとのんびり構えて、我々はむしろ厄介払いが出来たとゆっくり鑑賞することに。現代日本の親ならアタフタ必至に探しまわることだろう。どちらが良いかは分らないけれど。

ふと気がつくと遠くからぎゃんぎゃん大声が聞こえる。女性がフランス語で何か怒っているようだ。なんのことやらとその方面へ行ってみる。

静かな空間でグレーの制服にネクタイの、太った女性がもの凄い剣幕で怒っている。周りは衆人環視でいったい何事かと訝(いぶか)しがっていた。その前には見覚えのある日本人らしき二人の子どもが、顔面が床に付かんばかりに首をうなだれていた。

「ヤッベ!」
一瞬、血の気が引いた。何か美術品を壊したのか?ゴッホの作品もあったぞ!億単位の賠償金を請求されるのか?そうなりゃ一家離散だぞ、との悪しき想像を頭から振り払いながら、すっ飛んで行った。
どうやら広く静かな美術館で二人は鬼ごっこをしていたらしい。キャッキャ言いながら。
今度は我々夫婦が首をうなだれる番だった。かの太ったフランス人女性は矛先を我々に向け、やはりもの凄い剣幕でぎゃんぎゃん延々怒り狂ったのは言うまでもない。
「スミマセン、申し訳ない、ゴメンナサイ、親の監督不行き届きで....」
と日本語で謝罪しても、彼女には理解出来るわけもなく、筆者の顔面は次第にぴかぴかの大理石の床に接吻しようとしていた。内心、「あなたの怒る大声のほうがよほど他の客に迷惑かも...」なんてちょっぴり思いながら。
「オルセー」と言うより、「ウルセー美術館」じゃん。....でも真摯に反省した。

ほろ苦くも今となっては楽しい記憶。
パリのオルセー美術館というと、名画の記憶よりもこのエピソードを想いだす。
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