迷った。今請けている奈良の社会人軟式野球チームからのオーダーの、野球スタメンボード制作に着手するか、いっそ「緑陰読書」に行ってしまうか....。
「そうだ、京都へ行こう」なんて昔のJRのCMみたいに「そうだ、緑陰読書へ行こう」と劇的に判断して、速攻近くの公園へ。
(※因に奈良の野球チームはA級クラスの「masuda」というクラブチーム。いずれここでもたっぷりと書いていこうと思う筆者なんである)
「緑陰読書」は夏がいい。もう8月も終わりだ。読書の秋と昔から言うけれどそれはそれ、これはこれで夏には夏の極上の時間が流れていくんである。夏が終わる前にやっとその時間を持てることになった。
さてどの公園へ出撃するか。歩いて10分圏内に4つの公園がある。一番近場の公園にした。通称梅公園という、西有馬小の子どもらがよく集まる小さな公園だ。本当はオトナが読書に勤しむには不向きなんである。子らの大きな騒ぎ声やサッカーボールが飛んできたりと、読書の敵が満載の危険な場所なのだった。
筆者は小説に没頭すると周りの光景や騒音がだんだん遠のき、作中の人物と一緒に行動を共にしてしまうタイプだ。電車で読んでて降りる駅を2,3個乗り過ごしたことは1回や2回ではない。本を読んでて電車で涙を流したこともある。もっとも、向かいの席にミニの妙齢の美女が座っていたりすると、読書どころではない、同じページを何度も行ったり来たりして気もそぞろになっちゃう。1ページ読むのに普段の10倍かかる。オトコなら誰しも経験済みだろう。ねっ、読者諸兄(^-^)
公園にたどり着き高みからあたりを睥睨(へいげい)する。
良かった。小さい子連れの奥さん連中はいない。いい歳ぶっこいて無精髭にいかついサングラスをかけ穴あきジーンズのオジサンが、真っ昼間に公園を徘徊する姿は、彼女らの眉をひそめさせるには十分すぎるからだ。「オレ、変なオジサンじゃないかんな!」と憮然とした表情でベンチに座れば、これがまた逆効果に違いない。じゃあ逆に、ニコニコしながら入っていけば益々怪しいオッサンではないか。
奥様連中はいなかったが、子どもは思いのほか大勢いた。
木陰が落ちるベンチを厳選し脚を組み奥田英朗のページを繰る。次第にずぶずぶと物語の中に墜ちてゆく自分....。
「ずとっ」
「ざすっ」
「ごろんっ」
ん、ん、何事だ?
顔を上げると湾岸戦争勃発当初の米軍の夜間空襲のごとく、空から何かが次々と攻撃してくるではないか。
見ると遠く離れたブランコに乗った少年たちが、自分のスニーカーをより遠くへ飛ばす競争をしていたんである。彼らの能力の限界点がちょうど筆者のベンチ付近なのだった。
「俺ならおまえたちの倍は飛ばせるぞっ!倍返しだっ!」と言いつつ筆者も参戦してやろうとブランコへ歩み寄ろうと思ったけれど、ココロで思っただけだった。また小説に戻る。
「ざとっ」
「ずすっ」
「ごろりんんっ」
子どもらが僅差の勝負の判定をせんと、筆者のベンチまでやって来た。
「どっちだ、どっちだ」と子らが真剣に覗き込む。
筆者おもむろに本を閉じて言った。
「お〜し、オジサンが判定してやろう」
2個のスニーカーがごろんと肩を並べて転がっている。しっかりと見据えた。
「そっちのほうがハナ差で勝ちっ!」
と言ってやったら、その靴の馬主である子が、
「やったあ!オジサンが俺の勝ちだってさ」
と言ってまたきゃっきゃとブランコへ駆け戻る子たち。
ミサイルが頭を直撃してはたまらんので、ほどなくして公園を退散したのは言うまでもない。
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