2017年7月16日日曜日

熱い秋、開幕

まだ梅雨も明けない7月の中旬、すでに秋季大会の開幕なんであった。(毎年同じようなフレーズで書いているけれど) しかしこの時季、フォルコンズ、アリコ、松風、グリーンズ4チームは合宿にて式は欠場。合宿は天候が命、この三連休良い天気であって欲しいと思う。筆者が以前山中湖の合宿に行った時、グランドに着いたとたんにもの凄い土砂降りで午前中は林の中で雨を凌ぎながら子らは素振りをするしかなかった。しかし山の天気は女心と同じですぐに変わるのが常。午後からはピーカンの太陽のもと、楽しく合宿したのだった。来週から夏休み。これから合宿に行くチームにも良い天候に恵まれるように祈りたい。

さてもの凄い土砂降りのような写真枚数になる。開会式と第一試合のサワリ部分を写真で一気呵成に行く。まずは当ブログ恒例となった選手入場行進、チームごとのカットである。逆光で良い写真とはいえないが、そこんとこ4649なんである。※写真は順不同。





続いてジュニアの部。



優勝旗、優勝杯の返還。昨年は「W」マークのウルフが席巻。


行進特別賞はAもBもブルアロ。こちらもダブル受賞の快挙であった。


さて秋季大会は予選リーグ総当たり戦ののち決勝トーナメントに進む、長丁場の大きな大会である。6年生は事実上最後の宮前公式大会となるわけで。
第一公園での一回戦、第一試合はサンダースVSバーズ。こちらも写真にて。
始球式は神奈川県議飯田満さん。(公人なので漢字表記にて)先日の当ブログにも登場したばかり。
飯田さんは今TVで活躍の中田宏さんの衆議院時代と横浜市長時代に、秘書をしていたんである。昨今議員秘書と言えば思い出すのは例の豊田真由子氏なんである。

もし筆者が彼女の秘書だったならばと想像するとたいへん恐ろしい。絶対俺にも言うに決まってる「この、ハゲ〜〜〜っ!」と。あの報道以来彼女は日本中の真面目なハゲオヤジを敵に回したのだ。もし彼女が再起をかけて秋葉原で選挙運動するならば、全国の真面目なハゲオヤジが集結し「やめろコール」を絶叫するに違いない。更に群衆に紛れて一人のオヤジが大阪弁で叫ぶ。「おれの頭には髪の毛がな〜い〜!髪の毛返せ〜ドロボー」と。真面目な小市民である日本中のハゲオヤジを恐怖のどん底にたたき落とした彼女の罪は大きい。筆者ならボイスレコーダーだけじゃなく、こっそりと車載カメラを設置して動画を撮り、YouTubeにアップし億万長者になっていたに違いない。それにはおどろおどろしい顔でこう付け加えるのだ。「私は運転中に恐ろしい動画を撮ってしまったんです。これがアイツの正体です」と。ただしそのあと紙袋ひとつで頭皮...じゃなかった、逃避生活を送るのはまっぴらご免だけれど。

さて話はそれてしまったではないか。
東海大山形で高校球児だった飯田さん、やはりなかなかの力強いフォームで笑顔でいい球を投げていた。


では試合の写真をさっくりと。



バーズと言えばQueensの元気娘Hinataはもちろんのこと、どうしてもKentaくんに目がいってしまう。数年前の記録的な猛吹雪のあの時、線香の香る厳かな式場で、兄と一緒にぽつねんと椅子に座っていたあの子の姿が今でも脳裏に蘇る。
その彼ももう6年の秋を迎えた。兄と同じような立派な体格になり真っ向勝負のマウンドに立ったのだった。そんな話を連盟の至宝Nishimuraさんと交わしたのだった。
往年の村田兆治の「まさかり投法」を彷彿とさせる豪快なフォーム。


試合はサンダースペースで展開する。




3回にはバーズが一矢報いる1得点。その後マウンドに立ったのはQ姫Hinataが力投。捕手のファインプレーも飛び出した。


結果はサンダース勝利だった。
第二試合はウルフA2VSマーキュリーズ。ウルフはA2と言えどやはり狼の牙は研ぎすまされていたんである。

マーキュリーとはギリシャ神話に出て来るヘルメスであり、水星の英語名であり、またフレディー・マーキュリーは伝説のロックバンドQueenのボーカルである。(最後はあんまし関係ないか)不死鳥のごとく蘇った神木マーキュリーズ、水星が彗星のごとく現れたその姿をまた頑張って見せてほしい。


序盤で筆者は球場をあとにした。
明日はアサイチでフレンズVSメイツ戦なんである。ジジイになると早起きするようになると言われるが、筆者いまだに朝が苦手なんである。てことは、まだジジイにはなっていない証拠じゃないかと昔から言われている定理を恣意(しい)的に解釈しつつ、ニンマリしながらそろそろ寝ちゃうのだった。
合宿最終日となっているであろう4チームには大いに楽しんできて帰ってきてほしい。
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2017年7月11日火曜日

小説「月に雨降る」42

2017年の夏、その日の土曜は朝から雨模様だった。
淡いグレーと濃い灰色の雲たちが、互いにその領域を固守しようとせめぎ合っているような空だった。わずかに濃いほうの雲の軍勢が優位に見えた。
家を出る前にiPhoneの電話帳から『城崎かな江』を探し出し番号をタップした。かな江は龍一が希伊を探しに実家のある自由が丘へ行った時に、親身になって応対してくれた家政婦だった。育ての母親と言っても過言ではない。その後幾度か希伊から連絡がなかったかどうかなど電話でのやり取りをしたが、いつのまにか疎遠になってしまったのだった。しかしあのとき、まるで不細工な龍のようにも見える、荒縄で作られた蛇が掛かった鳥居のある奥沢神社の階段で約束したのは、希伊の消息が分かったら必ず連絡するということだった。まだ会える保証もなかったが龍一は電話してみることにした。番号を変えていなければいいのだが。
「あらあら、久しぶりですねえ神島さん」
開口一番かな江はそう言ってきた。相変わらず明るく懐かしい声だった。まだ自分のことは忘れていなかったようで安心した。
「城崎さん、ご無沙汰してます、神島です」
かな江の話によると龍一が訊ねてきてから半年後に永山の家政婦は辞めたのだった。その後縁があって結婚し、晩婚ながら一女をもうけたのだそうだ。今は幸せに暮らしているとのことだった。龍一も簡単に今の自分の環境を話して聞かせた。ひとしきり話をしたあとかな江が言った。
「それで神島さん。お電話をいただいたということは、まさか希伊ちゃんが見つかったの」
「いえ。まだ見つかりません。今日これから見つけに行くんです、金沢へ。砂漠の中の一本の針を探しに行くようなものですけど。その前に育ての母だったかな江さんに、お知らせだけをと思って」
「あれからもう十何年も経っているというのにまあ、そうなの。それは本当にありがとうございます。私もあれ以来希伊ちゃんのことは折に触れてずっと思ってました」
電話口の向こうにはしばらく沈黙が支配した。かな江の遠くの景色を見るような姿が容易に想像出来た。龍一はまた連絡しますと言って電話を切った。

子どもたちには一泊で金沢へ出張だと言ってある。まだ小学生の娘は少年野球チームの友人大乗寺の家に泊めてもらうことになっていた。希伊との事情を知っている息子のほうは金沢と聞いてぴんときたようだ。神妙な顔をして「グッドラック、お父さん」と言って親指を立てながら片目をつぶってみせた。
「欧米か。おまえいつからアメリカ人になったんだよ」
と言って龍一は笑いながら軽く頭をたたくポーズをしてみせる。玄関に行き靴をはいているとサチコが音もなく背後に来たのがわかった。振り向くと、立ったまま口をわずかに開けたのだがいつもの「みゃあ」とは言わずに、赤い口腔を開けて見せるばかりだった。目は龍一を見て口は何度もぱくぱく開けるのだがやはり声を発することが出来なかった。声にはならなかったがまるで「必ず希伊と再会してよ」と言ってるように思えた。しばらくすると四本脚で立っていたサチコは、不意に脚から崩れるように床に横になった。それは自分の意志に反して地球の重力に逆らえずに、横にならざるを得ない行為に見えた。龍一はいよいよ近いうちにその時が来ることを悟った。純真な娘はサチコを抱きあげてもう涙目になっていた。サチコの頭を撫でたあと子どもたちにはもしもの場合を覚悟をしておくように言い置き、後ろ髪を引かれる思いで家をあとにした。

渋谷から乗り込んだ山手線内回りの車窓に広がる街並を見ると、とうとう厚く暗い灰色の雲が空全体を占領し、さらさらと雨を降らせ始めた。東京駅へ出た。改札を抜けて北陸新幹線に乗り込んだ。
龍一は車中の人となり発車のベルとともにシートに深く沈み来むと、あっという間に眠りに落ちた。
ふと目が覚めると田園風景が遠くにゆっくり移動するのが見え、視界の手前では緑の樹々がかなりの速度で龍一の背後に飛び去っていくのが見えた。ここは何県だろう。どれだけ寝ていたのかわからなかったが、空模様は東京を出た時よりも雨脚が強くなっているのがはっきり理解できた。次々と変わる光景の中で、突然大きな轟音とともに一瞬で窓の外が真っ黒の世界に様変わりした。トンネルに入ったらしい。窓ガラスは黒い鏡となり、不意に龍一の顔がそこに現れた。龍一は図らずもうろたえてしまった。あの頃に比べて歳をとった自分がそこにいた。年長の者に言わせれば四十代はまだまだ若いと言うだろうし、ひと昔前に比べればアラフォーなんて中年の部類にも入らない、まだまだ自分は若いとも思っていた。それでもやはりそれなりに重ねてきた年輪を、顔のそこかしこに認めざるを得なかった。じっと覗き込んでみると相手も龍一を見つめ返す。いったい誰だこの男は。この男は今何を目的にどこへ行こうとしているんだ。
「俺はいったい誰なんだ」

と自問する龍一だった。そしてまた突然車内が静かになり、窓の外にのどかな田園風景が現出する。相変わらず無数の雨粒が激しくガラス窓に当たっては、つつうっと、真横に軌跡を残しながら後方に去っていく。そしてまた十数秒ののちに暗いトンネルに入り、黒い窓鏡に己の虚像が浮かぶ。鏡の向こうのその男はじっと龍一を見つめ返しているのだった。
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2017年7月9日日曜日

少年少女による少年少女野球

今日は日曜、向丘サンダースとの練習試合なんであった。といってもFは6年抜きのBチーム、サンダースはほとんどが3年生以下中心の構成なんである。
ブログは夜7時から書こうとし、さていつもなら「鉄腕ダッシュ」を観ながらとなるんであるが、今日はアメトーク日曜版「高校野球大好き芸人」を観戦しながらの観戦記を書くんであった。Macの画面よりもついついTV画面のほうばかり観てしまい、めっちゃ時間がかかっているんである。
※東海大一と東海大二の対戦、同じく智弁対智弁の映像には笑ってしまう。

さて、梅雨の合間の猛暑の中、菅生ドームでの試合なんであった。サンダースエースは女子選手であった。Q広報だから書くわけではないが、女子時代到来が叫ばれて久しいんである。本当に女の子が野球をやって全く違和感がないどころか、活躍する場面が多くなったんである。女子のプロ野球だってあるわけで。



練習試合でしかも遠征なのにFの父母応援団はもの凄い人数であった。銀座を闊歩する中国人観光客並みである。アレには辟易だが、Fの熱い応援団はとても喜ばしいことである。
Fは5年エースShohの力投に加えて、打っては初回に4本の長短打で一気9得点。チーム構成に差があるためここは点数や勝ち負けではなく、伸び伸びと収穫のあるゲームを両チームに期待したい。
Kazu「むぎゅ〜」



塁審は少年野球に熱き男Maedaオヤジ。
サンダース軍曹(コンバット!古い人ならワカルかな?)、カメラマンはご存知Takahashiさん。ドデカイCanonの望遠でセンターバックスクリーンからのショットを狙う。まさにCanon砲である。今またこんなレンズが欲しいと言ったら、確実に奥さんに殺されるそうだ。

Kazu「むぎゅ〜」

サンダースチビッコ軍団は大敗したものの、これだけの低学年選手が粒ぞろいなのは、きっとまた近い将来強豪サンダースの屋台骨を作っていくに違いない。チームの層の厚さはやはり強豪の名を後世に伝えるための基本形なんである。

もう1試合、時間の許す限りチーム構成を変えての対戦に。
その前にひと息つく。猛暑の中、川のせせらぎは人に清涼感を与えてくれる。菅生ドームそばの川は、およそ清流とは言えないし、四万十川には遠く及ばないけれど、じっと見つめていると、その水の流れは人の喉の乾きをも癒してくれるわけであった。

さて2試合目。主審を務めるFのKumadaさん。御歳70過ぎ。2試合連続でのマスクでも「なかなか普段汗をかかないから、まあいいさ」と、こともなげ。深謝。

試合はほぼ互角の3:2でサンダース。

途中から県議のIidaさんがサンダースの練習に参加。高校時代は東海大山形で高校球児であった。



ついにまたフレンズに女子が入部したんである。これでAnjuはじめ4人である。ヤングやフォルコンズにとうとう並んだわけで。猛暑の中その一人Reonaはチームの女子マネージャーとして、皆に冷たいタオルをせっせと一生懸命配りまくっていたんであった。

フレンズ史上初の大人数女子となった。筆者の娘が在籍していた頃は3名くらいが最高で、その後女子はとんと途絶えて、やっとHarukaが入りまたその後途絶えて。そしてここ数年で一気に4名になったんであった。
彼女はもうすでに5年生のRiko。それともちょっとおしゃれに、女子力高めにLicoという表記が良いだろうか。「筋金入りのカープファン」の両親の影響で野球が大好きなんであった。昨年体験会に来た時は水を得た魚のようにグランド狭しと跳ね回っていたんである。俊足が印象に残る可愛い子であった。そのRikoが5年生ながらFに入部。他のフレンズ姫と共にこれからが楽しみである。


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コトバについて

久々、コトバについての極私的考察的駄文製造マシーン発動なんであった。

先日ってゆーか先週TVの「アナザースカイ」を観ていたらこんな言葉が飛び出して、少年野球界の端っこにいて、なおかつ、言葉の扱いには慎重にならざるを得ないブロガーとしても気になった言葉があった。

「勝って奢(おご)らず、負けてくじけず」

うーむ、素晴らしい言葉であると思った。ブログを書くにあたりググッてみたら、案の定その番組のゲストが考えた言葉ではなく、古今東西たくさん言われている言葉らしい。正確には「勝って奢らず、負けて腐らず」。本来の出典はよくわからないが、座右の銘としているスポーツ関係著名人も多くいるようだった。確かに良いコトバである。是非こうなりたいと思う今日この頃である。

小説「月に雨降る」はいよいよ佳境を迎え...と、以前ここで書いてから随分経つように思うけれど、実際今書いているパートは龍一がすでに金沢へ行っているシーンなんである。これを粛々と毎週一話ペースでアップしようかと画策。連続でアップしちゃう弊害は何か。ブログは新しい順から読んでいくので、連続してアップすると読者はつい「42話」を読んだあとにその前に書いた古い「41話」を読む、という連載小説としては本末転倒、言語道断な、あってはならない結果になりがちなんである。本格ミステリで言えば密室殺人のトリック解明を読んだあとに、その直前の犯人の犯行シーンを読むようなものだ。
その小説やこのブログにもたくさんの「コトバ」が登場するけれど、時にちゃんと調べないで己の経験値や勝手な解釈で、「コトバ」の誤用が生まれているんであった。

例えば「須く(すべからく)」
例文はこれ。「学生はすべからく学業に励むべきだ」
正しい意味は、「当然、是非とも」なんであるが、筆者は「すべからく」が「全て」の語感と相まって「すべて、皆」というふうに誤解しちゃっていたのだった。たぶんブログで何度か誤記しているかと思う。ああ、怖いったらありゃしない。

このように誤用に気づかされるひとつのツールがある。
iPhoneにダウロードした辞書アプリ「コトバンク」なんである。毎日「本日一番多くネットで検索されたコトバ」が自動的に届くシステム。ちょっと煩わしいと思うこともあるが、前出「須く」の正しい意味を知ったのはこのコトバンクのおかげであった。「忖度」は当然アップされたけれど、更に「忖度」と「斟酌」のビミョウな違いを調べてみるのも楽しいものである。

この中で「参ったな、マジっすか!俺使い方間違っていたじゃん」という「忸怩(じくじ)たる」思いをしたコトバがあった。それはまさにこの「忸怩たる」というコトバなんである。
このコトバの意味をずっと漠然と、「不本意でイライラして、自分の心のいら立ち」を表すコトバだと思っていたけれど、コトバンクによれば「自分の行いを心の中で恥じ入るさま」とあった。これまで誤用してきた自分に対してまさに「忸怩たる」思いなんである。この「忸怩たる」はここでかなり多用してきたはず。ほんとに恥ずかしい思いである。

他にもいっぱいある。「檄(げき)を飛ばす」
正しい意味は「自分の主張や考えを広く人々に知らせ同意を求める」こと。
間違った用法は、「元気のない者を激励し活気づける」こと。
少年野球のシーンで監督コーチが子どもらに大声で「檄を飛ばした」と書くのはたぶん、間違っているんである。
因に前者の正しい意味を理解していた人は19.3%で、後者の間違いの人は72.9%だった。

ほかにもいっぱいあるんである。
「情けは人のためならず」...他人に情けをかけるのは本人にはかえって良くないこと、というのは間違い。正しくは、人に情けをかけると巡り巡って自分のためになるから良いことだ、なんである。正しい人は45.8%、間違いは45.7%で、これは拮抗している。

「破天荒」...これワカリマスカ?
正しくは「誰もなし得なかったことをやってのけること。前代未聞」なんである。16.9%
間違いは「豪快で大胆な様子」で、64.2%
筆者も64.2%の一人であった。あな、恐ろしや、なんである。

他にも「役不足」「憮然(ぶぜん)」など。初めて知った言葉は国会で乱発されてまだ記憶に新しい「恣意的(しいてき)」

たかがブログ、されどブログなんであった。

自分の書いた文章をワールドワイドウェブ(WWW)に公表するからには、それなりの「矜持」を持って書かねばと「襟を正す」と同時に、なんてこの世は住みにくい、あまり萎縮しちゃったら勢いのある文章が書けないわけで、夜も更けてグラスを傾けながら、琥珀色の海の中で、そのコトバの海の間(はざま)に身を任せ、たゆたうわけなんであった。
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2017年7月4日火曜日

小説「月に雨降る」41

店を出たあとよほど恵比寿に戻って真壁の店に行こうかと考えたが、今日はやめておこうと思い、まっすぐ帰宅することにした。それでも恭子のことを思うと胸に刺さった棘は簡単に取れそうもなく、もっと強い酒が飲みたかった。酒で胸の痛みが沈静化するはずもないことは分かっていたが、地元の駅前のスーパーがまだ開いていたので寄ってみた。いつも購入する国産の安ウィスキーには食指が動かず、思い切ってワイルドターキーを買い物かごへ放り込んだ。自宅は駅から歩いて10分ほどの中古分譲マンションの上層階にあった。ローンの残高はまだ気が遠くなるほどあった。希伊と過ごした中野坂上のアパートはあれからほどなくして引き払い、田園都市線の桜新町へ引っ越し結婚後もそこで暮らしていたが、子どもができたのを機に同じ路線のもう少し郊外のここへ越して来たのだった。あれ以来捨て猫だったサチコも神島家の家族としてずっと龍一とともに過ごしてきた。龍一は帰宅するとまず最初にサチコの喉を撫でてぐるぐる鳴らすのが日課となっていた。時には抱き上げて頰ずりしたり、または足の肉球の匂いをかいでみたり、一番にサチコに接するのだった。希伊の分身と思い飼い始めたサチコだったが、子猫だった彼女も今は老猫となり最近の様子をみると、近い将来やってくるであろう、生の終焉の予感に胸が締めつけられる思いだった。
そんなサチコが玄関口で龍一を出迎えた。「ただいま、サチコ」と言って右手で喉をさすり同時に左手で頭を撫でると、目を細め顎を突き出してすぐにぐるぐると喉を鳴らしはじめる。しばらくして頭をぽんぽんしてやるとゆっくり娘のベッドへ戻って行った。娘の部屋はサチコが夜中でも自由に出入り出来るように扉は薄く開けてあるのだが、灯は消えて暗かった。娘はもう寝ているようだ。息子の部屋のドアのすき間からは薄明かりが漏れているが、間違いなく勉強ではなく彼女とLINEをしているかスマホゲームをしてるはずだ。自分も中学時代は3年の部活が終わるまではまともな受験勉強などした記憶はなかった。ましてやまだ2年のあいつは今が一番楽しい時期なのかもしれない。

軽くシャワーで汗を流したあと冷蔵庫から350mlのビールを取り出し一気に飲んだ。まだ真夏のように汗をかくような季節ではなかったが、炭酸が喉を刺激しながら下降し腑に落ちる感覚が心地よかった。すぐに空にすると先ほど購入したターキーの13年物をスーパーの袋から取り出す。ロックグラスに氷を入れ、とぷとぷとグラス半分まで注いだ。ターキー独特の香りが龍一の鼻腔をつく。グラスを目の高さまで持ち上げてその奥行きを見てみる。リビングの照明の光を受けて、琥珀の液体はゆらゆらと氷のすき間を漂っていた。宇宙が生まれる前のカオスの渦巻きのようだ。或いは神様がこれからどうやって宇宙を形成したものか迷っているみたいに。龍一はそれを見ているうちに、つい数時間前の恭子とのことに思いが及んだ。心臓がきゅっと音を立てて締め上げられたような気がした。食卓に頭をつけて目を閉じた。しばらくそうしていたが、やっと顔を上げてひと口喉に流し込むと今度は希伊の映像が浮かんできた。あの日の朝の記憶が蘇ってきた。龍一の頭の中でもうすでに何度この映像がリプレイされたことだろうか。希伊は書き置きを残して雨の朝に忽然(こつぜん)と消えてしまった。ふとあの書き置きのことが気になった。確か今でもどこかに保管していたはずだ。うしろから背中を針で突つかれたように立上がり、収納家具の一番下の抽斗(ひきだし)をあけ、その奥からモンブランの万年筆の空箱を取り出す。
「あった」
龍一はその17年前にしまい込んだ黄変したメモ用紙を取り出し、ゆっくりと丁寧に広げてみた。博物館の学芸員が古文書のページをめくるみたいに。そこには懐かしい希伊の筆跡が踊っていた。
『リュウ、ほんとうにごめんね。いつかまたその日がきたら逢いたいよ』
じっと見ているとちいさなメモ用紙の表面に僅かな窪みを発見した。複雑にうねるようなミミズ腫れのような窪みだった。あの時も何か違和感を感じたのを想い出した。光にかざしてみる。はっと閃いた龍一は、目の前の抽斗から仕事で使う2Bの鉛筆とカッターナイフを取り出した。鉛筆の先を何度か削り芯だけを長く露出させる。今度はカッターの刃を立てて芯の部分だけを細かく削り粉末状にフローリングの床に落としていった。中指でその黒い粉末をすくい取るとメモ用紙に軽くこすりつけていく。全体が鉛筆の粉で黒く染まったところで余分な粉をはたいて落とした。手にした紙には希伊が書いた黒い文字とは別の文字が、うっすらと反転して白く浮かんでいた。ジェイムズ・ボンドだったかケーリー・グラントだったかは忘れたが、若い頃昔のサスペンス映画で見た手法だった。メモ帳に強い筆跡で一度書いてから思い直し破り捨て、2枚目にまた文字を書く。その際に2枚目には1枚目に書いた筆圧が微かに窪みとして残されているのだった。
龍一はその紙面を凝視して照明の光をいろんな角度から当ててみた。解読を試みた。おそらく希伊は1枚目を破棄して2枚目だけを龍一に残したに違いなかった。目を細めて見てみるとそこには希伊の筆跡がおぼろに浮かんでいた。
『私は金沢に行きます。いつかまたリュウと逢える日を待ってます。こんな意気地(いくじ)なしの私でごめんなさい』
龍一はじっとその字面を見つめたあと、たたみ直して財布にしまい込んだ。うす暗いリビングで龍一ははっきりと声に出して言った。
「金沢へ行こう」

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