2019年3月3日日曜日

春は生きる証(あかし)

トンネルは暗かった。ずっと先まで。時折向こうに微かな光明が射し、いくらか周囲が明るくなったように感じられる。もう少しでこの長い志賀直哉的暗夜行路を抜け出せるかと期待したのち失望したこと数知れず。その度に突然手紙がひらり舞い降りてくるのであった。暗がりの中で懐中電灯をかざして読めば、
「Teshimaさん、すいません、また先方の都合で設計変更なんですが、月曜の朝までお願いできますか?」
ふと顔を上げてトンネルの向こうを伺えば、ふっつりと光は消えてなくなり、また元の暗渠が深く足元に広がっているのだった。

そんな繰り返しがここ1,2ヶ月続いたんである。Queensなどの大事なイベントには行ってるものの、少年野球関連、ことにフレンズにはとんと顔を出せていないわけで。平日ヒョコンと青天の霹靂的に暇になることはあっても、前述のように土日に限って仕事になっちゃうんである。しかし、昔はこの数万倍も身も心もボロボロになるまで仕事した経験値があるので、それを思えばさほど苦にならないのだった。ただ、胸が痛むのはチームのマグネットや名刺、スコアラーなどの責務を全う出来ずにここまできていることだった。

今度こそトンネルの向こうに射した光はホンモノか。どーにかこーにか、コニカミノルタ、抜け出せそうな予感がする今日この頃なんである。今週は神戸のチームのマグネットをはじめ、また少年野球関連にシフト出来そうなんである。

そんな春の予感を感じつつ先日例によって短い散歩にでた。回遊魚的生命維持装置的行為である。正確には散歩ではなくバイクで近所をサクッと走ってきたんである。バイクもすっかり冬眠状態だったので、小さな子熊も少し目を覚まさせてやろうと思ったのだった。お目当てはすぐ近くの、その名も「有馬梅公園」。梅と桜の混在する小さな公園である。桜はまだ硬い蕾だったが予想通り梅は満開、見頃なんであった。

すかさず山形39LINEグループに写真をアップ。
「紅葉と初雪は山形が先だけど、梅と桜は川崎が早いぞ」みたいなコメントで。
最後の写真をiPhoneで撮り終えたころ、視界の端に筆者よりも随分年上と思しき老婦人が独りやってきたのが見えた。70代後半80間近といった年代だろうか。軽装で白いスニーカーを履いていた。彼女とすれ違い公園を出るときに後ろを振り向けば、そのご婦人は嬉しそうにニッコリと目の高さの梅に顔を近づけ、その花の香りを楽しんでいたのだった。その表情はまるで少女のように純真無垢そのものだった。よほどその後ろ姿を撮ろうかと思ったけれど、なぜか少し不遜な気がして気後れしてしまい断念した。一眼レフを持っていたらもしかして遠くから撮っていたかもしれない。

その老婦人は「独り」だった。(最後の写真右端)...独り、それがちょっぴり気になった。老夫婦二人で仲良く公園を散歩なんて出来すぎたTVドラマにありがちな場面。なぜかその人の人生や来し方にまであらぬ想像が及んでしまった。筆者の悪い癖でシロウト小説家的、勝手な妄想と言ってしまえばそれまでなんであるけれど。....過日ご主人を亡くされて今は独り身ながら、梅の咲き乱れる春の訪れと共に、こうして生きている喜びを分かち合いたくて早春の梅公園へ足を運んできたのだろうか...なんて。違っていたらごめんなさい。
少し背伸びしながら梅の花に顔を近づけているその後ろ姿は、実に可愛らしかったんである。

今日日曜、確定申告書類も投函しやっと今週から少年野球にギアチェンジ出来そうな、梅の咲く季節であった。
春はまだきぬ。でもすぐそこまで来ている足音は、確実に聞こえていた。

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